謎の3億円

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真顔の三井が続ける。 「……3億円は野村会長が用意するそうだ。その一部を社長と野村監査役に貸し付けることにして、持ち株比率は維持する。増資と一緒に金銭貸借契約書もつくるから、土橋君には契約書と返済計画書をつくってもらいたい。いいかな?」 野村監査役というのは、野村社長の妻の晶乃のことだ。書類に判子を押すだけで、実質的な仕事はなにもしていない。 「もちろんです。持ち株比率は、野村会長60%、野村社長30%、野村監査役10%ですから、社長に9千万、監査役に3千万を貸し付けるということですね?」 「ああ、そうだ」 「返済期間は5年。金利は普通預金の金利でいいですか? 実質、返済はないのでしょうけど……」 土橋が皮肉を言った。 「実質はともかく、形式的には月々の返済の実績は作るだろう。税務署に贈与とみなされたら、税金が大変だからな。会長もお歳だ。……返済期間は10年がいいだろう。金利は土橋君の言う通りでいいよ」 高齢の会長に対する返済期間をあえて長くするのは、相続税対策を兼ねているのかもしれない。そんなところに三井の配慮を感じた。 ふと疑問を覚える。会長は三億円もの資金をどうやって用意するのだろう? 18年間も経理を務めたから役員に対する報酬は承知している。オーナー一族とはいえ中小企業のこと、役員報酬は決して多くない。
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