sympathy for devil(悪魔を憐れむ歌)

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同級生のカゲオこと、影山忠男は便利な奴だった。 口下手でドジでノロマで要領が悪い。 小柄で痩せていて、運動も苦手だから、自分に自信もないらしい。 だから、少し大きな声でも出せば、俺の言いなりになる。 困ったときは泣きついたら、甘い奴だから俺を簡単に許す。 自信がないから、声も小さくて、言いたいことが言えず、皆から馬鹿にされていた。 女の子とは恥ずかしくて話せないらしい。 普通の会話もできないから、気持ち悪がられていた。 女の子と話していたら、俺が冷やかすようにしていたからでもあるが。 しかし、気に入らないことがあった。 俺より成績がいいのだ。 体育はまるで駄目だったが、他の教科はトップクラスの成績だった。 特に国語と社会は本当にトップだったようで、テストの結果が出る度に皆から褒められていた。 学年に2クラスしかない田舎の小学5年生のトップだから、たかが知れているが、それでも気に入らなかった。 照れ屋なカゲオは謙遜していたが、勘違いしないように「調子に乗るなよ!」とクギを刺しておいてやった。 我ながら親切なことだ。 カゲオには身分の違いを叩き込んでおく必要があった。 「金田不動産」社長のひとり息子である金田安男様と、潰れかけの乾物屋の次男ごときが同等であるはずがない。 だから普段から大声で、皆に聞こえるように奴を叱り飛ばしている。 生意気にも反抗的な目をしやがるときもあるが、そんなときは「なんだ、その態度は? せっかく人がおまえのためを思って注意してやってるのに!」と、畳み掛けてやる。 ムカムカしているとき、カゲオを怒鳴りつけるとストレス解消にもなるし、周囲には身分の違いを示すことができるし、一石二鳥だった。 カゲオが俺に感謝するどころか、軽蔑したような目をしやがるのは気に食わなかったが。 つい、さっきもカゲオがクラスで友人数人と笑い声をあげていたので、「うるさい! まわりの迷惑を考えろ! マナーも知らないのか!」と大声で指導してやった。 「おまえの声の方がうるさいじゃないか……」と生意気にも反論したような気がしたが、蚊の鳴くような小さな声で聞き取れなかった。 まわりへのアピールにもなったし、上出来だ。 これが本当に何もかも駄目な奴を叱り飛ばしたら、いじめになって悪者にされてしまうが、カゲオは成績のいい方の人間だから、いじめにはならない。 おまけに変なプライドがあるのか、教師や親やひとつ年上の兄貴には言いつけない。 本当に便利な奴だ。 俺を見下した目だけは気に入らなかったが……
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