見世物小屋

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見世物小屋

「さぁさぁみんな! 見てっておくれ! 今日は世にも珍しい生き物が登場するよ! 今を逃したらもう二度と見れないよ! とにかく騙されたと思って、入ってごらんなさい! さあさあ間もなく始まるよ!」 「うっ。う~」  ざわざわと耳に入ってくる音に、伊吉は目を覚ました。 「こ、ここは? な、なんで檻に入れられてんだ!?」  伊吉は目の前に格子があることから、自分が上から布をかけられた檻に入れられていることに、声をあげた。身体を動かそうにも鎖で拘束もされている。 「さあさあみなさんお待ちかね! 世にも珍しい生き物が登場するよ!」  なにかの司会者らしい者の言葉にあわせ、伊吉が入れられている檻が、動き出した。 「おい! 出せ! 俺をここから出せ!」  伊吉が喚くも、布ははずされない。ふと、目的の場所についたのか、檻はその場で動かなくなった。 「見逃し厳禁! とくとご覧あれ!」  バサリと、布がはずされた。 「おお!?」  伊吉の目の前に飛び込んできたのは、顔の半分ほどの大きさの一つ目と、筋肉粒々な上半身に、一本だけの太い足の化物。二足歩行の狐やら狸の化物。目が三つもある化物に腕が四本もある化物たち。まさしく人外。化物そのものだった。 「どうだい! 珍しいだろう!? 『人間』なんて実在しない! 『人間』なんて物語のなかだけだ! 誰もが今までそう思ってきた。だけど 今、あんたたちの目の前にいるのは、『人間』そのものだよ!」 「すげぇ! 人間だ!」 「本物なのか!?」  見物人たちは、少しでも近くで見ようと、檻のなかに入った伊吉に殺到する。 「く、くるな! くるんじゃねぇ! 化物!!」  伊吉は少しでも近寄ってくる化物たちから距離を取ろうと、背後の格子に身体を張り付ける。 「化物だってよ」 「なんだい、こいつは。自分のことを言っているのかいい?」 「俺たちからしたら、『人間』のほうが、『化物』だよ」  けらけらと、化物たちは笑う。  伊吉は恐怖で震えた。化物を捕まえて見世物にするはずが、自分が見世物になるとは、つゆほども思っていなかったからだ。これから自分は一生、化物たちの見世物にされてしまうのだろうか。伊吉ができることはただひとつ。震えることだけだった。  それから、伊吉の姿を見たものは誰も現れることはなかった。ただひとつ、言われるようになったのは、「野暮と化物は箱根から先」という言葉だけ。
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