珍しい生き物の正体は

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

珍しい生き物の正体は

「さぁさぁみんな! 見てっておくれ! 今日は世にも珍しい生き物が登場するよ! 今を逃したらもう二度と見れないよ! とにかく騙されたと思って、入ってごらんなさい! さあさあ間もなく始まるよ!」  道の往来で呼び込みをしている一人の男。彼は見世物小屋の羽織を着ていた。 「いったいなんだ?」 「どんなものだい?」  呼び子の言葉に、一人、また一人と小屋へと入っていく。 「そこいくあんた! よかったら見ていかないかい!?」  呼び子に声をかけられた伊吉(いきち)は、足を止めた。 「あぁ? 見世物小屋ぁ?」 「今日は珍しい生き物が登場するよ! 気に入らなければ、お代は結構! どうだい?」 「あー。そんなに言うなら、見てってやるよ」 「一名さまご案内!」  伊吉は暖簾をくぐって、中に入った。小屋の中は薄暗く、そして狭い。だが舞台は一段高くなっているからか、伊吉がいる入り口付近からもよく見えた。  それからすぐに、入り口が閉ざされた。 「みなさん! 長らくお待たせしました! どうぞ最後まで楽しんでいってくださいませ!」  そういって始まった見世物。蛇女から、動物たちの曲芸。見世物小屋ならではの芸が次々と披露される。だが、どれも伊吉にとっては面白味のないものばかりだった。 「なにが珍しいんだ? ありきたりなものばかりじゃねぇか」  伊吉は退屈そうに、欠伸をこぼした。 「さあさあみなさんお待ちかね! 世にも珍しい生き物が登場するよ!」  上手から布がかけられた檻が運ばれてくる。 「見逃し厳禁! とくとご覧あれ!」  バサリと、布がはずされた。 「おお!?」  目に飛び込んできたのは、顔の半分ほどの大きさの一つ目と、筋肉粒々(きんにくりゅうりゅう)な上半身に、一本だけの太い足。まさしく人外。化物そのものだった。 「うぅ! うぅぅ!!」  一つ目の化物は猿轡(さるぐつわ)と鎖で拘束されており、ひたすら檻に身体をぶつけていた。 「どうだい! 珍しいだろう!? 『化物』なんて実在しない! 『化物』なんて物語のなかだけだ! 誰もが今までそう思ってきた。だけど 今、あんたたちの目の前にいるのは、『化物』そのものだよ!」  小屋の中が一気に騒がしくなる。 「いやぁ、こいつを見つけるのには、苦労したよ。なにせ、箱根の関所の方まで探しに行ったんだからね! それもすべて、みなさんに珍しいものを見てほしかったからさ!」 (本物なのか? 本当に化物なのか!?)  誰もが近くで一つ目化物を見ようと、舞台へ殺到する。伊吉も興奮して、前の人を押し退けた。  だが、次の瞬間、檻に布がかけられてしまう。 「さあ今日はここまで! また次の機会に来ておくれ!」  演目が終わり、小屋の中にいた者たちは、出口にいた小屋の者に金を払って出ていく。伊吉も銭を払って、外に出た。  少し離れてから、伊吉は見世物小屋を振り返る。呼び子の声に釣られ、人が次々と入って行くのが見えた。 「あの化物は、箱根で見つけたって言ってたな。あれを捕まえて、見世物にすれば一儲けできる!」  伊吉はさっそく旅支度をしようと、急いで帰路についた。  箱根まではだいたい三日ほど。その後、妖怪を捕まえて帰ってくるのとなると、多く見積もって二週間はかかると、伊吉は思った。  入念と準備をし、伊吉は箱根へと旅立った。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!