怪談 スマホの中の見慣れない女

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怪談 スマホの中の見慣れない女

 いまのご時世、スマホで写真を撮るひとは多いと思う。  風景や料理を撮影したり、友達や家族と自撮りモードでいっしょに撮ったりして、あれは楽しいもんだ。  だがその写真に、見慣れない人間の顔をふいに見つけてしまったら……?  気を付けたほうがいいかもしれない。  これは半年ほど前のある夜。  自宅でスマホの写真を整理していたときの話だ。 「あれ?」  俺は首をひねった。  スマホには、先日友達同士でファミレスに集まったときに、自撮りモードで撮った集合写真が表示されている。  ジュースやポテトをそれぞれ手に持って、はしゃぎまくっている俺たち……。  そんな俺たちの後ろで、見慣れない女の子がこちらに笑顔を向けていた。それが気になったんだ。  茶髪セミロング。  どこにでもいそうな若い女の子。  もちろん、俺たちと面識はない……。  そのとき、俺たちの背後にいた少女。  それがたまたま、写真に写りこんでしまっただけのようだった。  ただ、気になったのは、 「この子、さっきもいなかったっけ?」  そう、別の日の写真……。  俺と彼女がデート先の展望台において、ふたりで自撮りした写真があるのだが、その背景にもその女はいたのだ。  それも、まったく同じ笑顔で。  ……心臓が一気に高鳴りはじめた。  面識のない女が、笑顔で俺の写真――  その背景に映り込んでいる。  それも、二度も?  コピーでもしたかのような同じ顔で?  こんなことはありえない。  俺はここで、スマホを触るのをやめるべきだったんだろうが……。  しかし気になってしまった。  他の写真にもこの女がいるかどうか、確かめたかったんだ。  俺は次の写真をチェックした。  その瞬間、戦慄した。  スマホの液晶に。  笑顔の女がアップで写っていたのだ。  それは居酒屋のときと、展望台のときと、寸分違わず同じ笑みだった。  笑顔の女と目が合った。  いまにもこちらに声をかけてきそうだ。  それにしても……  よく見ると彼女の笑顔はおかしい。  肌は生気などまるで感じないほど真っ白で、口元は笑ってこそいるがどこか引きつっているような表情。楽しい笑い方ではない。邪悪な笑みだと直感した。  俺はそのまま、彼女をずっと見つめていた。  逃げることは許されないような雰囲気だったのだ。  もう、息をするのさえ忘れていた。  ただわずかに指先を震わせて、 「あっ」  そのときだ。  スマホの液晶がふいに真っ暗になった。  俺はスマホの電源ボタンを押してしまったのだ。  そのため液晶が暗転したのだが、もう一度ボタンを押して、スマホの待ち受け画面を開こうとは思わなかった。  もう寝よう……。  そう思った俺は、スマホを放り出して、ふとんをかぶった。  朝になれば、全部解決する。  そう信じて。  …………。  ……夜中、目を覚ました。  身体が汗でびしょびしょだった。  そのうえ、身体がやけに重たい。  指先さえまともに動かせない。  どういうことだ……。と思っていたら、  アハハっ……  笑い声が聞こえた。若い女のものだ。  真っ暗な部屋のどこかで、女が笑っている。  アハハっ……  アハハっ……  すぐ近くに、誰かがいるのを気配で感じた。  首をそちらに向けようとしたが、動かない。  それでも努力して、かろうじて眼球を動かす。すると――  放り出したスマホの液晶が点いていた。  そして、例の写真の女が笑顔をこちらに向けていて、 「やっとこっち、見た」  そう言って。  目が吊り上がり、だんだん、睨むような形になっていった。  口元は笑ったままなのに。彼女は目だけを大きく見開き、怒り狂ったかのようなまなざし、血走った瞳。  逃げ出したかった。  歯がガチガチと鳴り、心臓はもう破裂せんばかりに脈打っている。  それでも俺の身体はまるで動かず、彼女の歪んだ笑顔をただただ眺めることしかできない。  ……だけどその瞬間だ。  強い風が吹き、窓がガタガタと揺れると、スマホはフッと消えた。  身体が軽くなった。  俺は慌てて、部屋の隅にあったハンマーでスマホを殴って破壊した。  あとになって思えば、そんなことをしたらいっそう仕返しが怖い気もするが、そのときは必死だったのだ。  それ以降、笑顔の女は消えた。  そのあと、俺はスマホを買い換えた。  新しいスマホを使い始めたときは、液晶を点けるたびに怖かった。  けれど、あの女はもう出てこなかった。  それでも、もうスマホのカメラ機能は当分使う気がしないが……。  ところで、彼女と出かけて写真を撮った展望台。  あそこでかつて、若い女が失恋を苦にして飛び降り自殺をしたという話を耳にした。  もしかしたらあの笑顔の女は、展望台で自撮りをしたとき、俺についてきたのかもしれない。そう思った。
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