ひとり

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駅で待ち合わせしているの きっと自分は気付いていないだろうけど、その子は私にとっては憎らしくほのかに頬を赤らめていた 小学生のときテレビドラマで「おめでとうなんて言えない」という意味不明な台詞を聞いたけど、今ぱちんとはてなが弾けた 雨が降る夜、その子は頭に落ちる雫など気にならぬぐらい彼のことしか見えないのだろうか 盲目にはなりたくないが、その感覚は私の知らぬ世界で入ってみたいとは思ってはみるものの、教科書に載る場所のように遠そうだ チャリン その子のかかとにいかにも細身らしい男の名前が彫られたキーホルダーが落ちた 無駄に優しい私はそれを拾う 機嫌よく高いきれいな音の鈴 ありがとう 頬を赤らめたその子が手を差し出した ここで鈍い音になるぐらい鈴を握りつぶしたらその子は絶交だと言うかな 恋をとるか友をとるかという質問に人々は二分するが、恋を知ったら結局友をとる人なんて少ないのかもしれない はい、どうぞ まだ友をとる選択をする私はキーホルダーを渡した 駅前でその子と別れた 一人にしては大きい傘を持って屋根の下で立つ 改札前の電光掲示板はあと3分後に電車が来ることを知らせている 私はまだ小さな折りたたみ傘で歩く 肩が少し濡れる でもちょうどいい 私の隣は雨ぐらい
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