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ダンッ!
ダダダンッ!
その夜。
あたしは、夜中に目を覚ました。
原因は妙な物音のせいだ。
……いったい、何?
ベットから身を起こしてカーディガンを羽織る。
……気のせいだった?
耳を澄ませて聞こえるのは、蛍光灯のジジジ……という音。
ガン!ガガガン!
何かをぶつけるような音が隣の部屋から聞こえる。
……隣の部屋はハクの部屋。
あたしは、中学生になった頃から勝手に入るなと言われている。
でも声ぐらい、かけてもいいだろうか?
あたしは恐る恐る、部屋の扉の前で呼びかけた。
「ハク!どうかしたの?」
「……悪い……何でもない」
あたしの呼びかけに返ってきたのは、いつもより疲れたような掠れたハクの声。
「でも、何か凄い音したよ?」
私はノブに手をかけた。
ガチャリ。
やっぱり、鍵がかかっている。
……あたしはハクの部屋に、もう何年も入ったことがない。
「……大丈夫だから。シオ、早く寝ろよ」
「でも……」
あたしがドアの前で躊躇していると、ガチャリと中からハクが出てきた。
こんな時間に上着に、ジーンズという出で立ち。
「え?こんな時間にどこ行くの?」
「どいてくれ……」
ハクは行く手を塞ぐあたしの肩を押す。
「ちょっと出てくる」
「ねぇ、何処へ行くの?」
しつこいあたしの質問には答えず、ハクは黙って玄関に向かう。
……ハクはあたしの顔を見ない。
この4月、高校に入学してから特に。
あたしが一体、何をしたというんだろう。
昔は、何をするのも一緒だったのに……。
ハクが以前のようにあたしと一緒に居るのは、何故か朝の登校時だけだ。
他の時は、まるで存在しないかのように扱われる時も多い。
あたし……。
顔を見るのも嫌なぐらいのことをハクにしたんだろうか?
全く、思い当たることはない。
でも、あたしが気づいていないだけで、ハクを深く傷つけたことがあったとしたら……?
そう思うと、この暗闇の中に出ていこうとするハクを引き止めたくても、勇気が出ない。
あたしはギュッと拳を握りしめ、長い足を投げ出して、窮屈そうに靴を履く大きな背中を見た。
あたしに背を向けるその姿は、全身であたしを拒絶しているかのようだ。
「……」
玄関のドアがバタン!と閉まる。
……きっと今夜もハクは帰ってこないだろう。
そして病院勤めの父さんとママは今夜も夜勤。朝まで二人とも帰ってこない。
一人取り残された廊下で、あたしは迷子のように膝を抱え、座り込んだ。
知らず知らず、あたしの口から堪えきれず、嗚咽がもれる……。
どうして。
あたし達はこんな風になっちゃったんだろう。
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