栞 side:2

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栞 side:2

ダンッ! ダダダンッ! その夜。 あたしは、夜中に目を覚ました。 原因は妙な物音のせいだ。 ……いったい、何? ベットから身を起こしてカーディガンを羽織る。 ……気のせいだった? 耳を澄ませて聞こえるのは、蛍光灯のジジジ……という音。 ガン!ガガガン! 何かをぶつけるような音が隣の部屋から聞こえる。 ……隣の部屋はハクの部屋。 あたしは、中学生になった頃から勝手に入るなと言われている。 でも声ぐらい、かけてもいいだろうか? あたしは恐る恐る、部屋の扉の前で呼びかけた。 「ハク!どうかしたの?」 「……悪い……何でもない」 あたしの呼びかけに返ってきたのは、いつもより疲れたような(かす)れたハクの声。 「でも、何か凄い音したよ?」 私はノブに手をかけた。 ガチャリ。 やっぱり、鍵がかかっている。 ……あたしはハクの部屋に、もう何年も入ったことがない。 「……大丈夫だから。シオ、早く寝ろよ」 「でも……」 あたしがドアの前で躊躇していると、ガチャリと中からハクが出てきた。 こんな時間に上着に、ジーンズという出で立ち。 「え?こんな時間にどこ行くの?」 「どいてくれ……」 ハクは行く手を塞ぐあたしの肩を押す。 「ちょっと出てくる」 「ねぇ、何処へ行くの?」 しつこいあたしの質問には答えず、ハクは黙って玄関に向かう。 ……ハクはあたしの顔を見ない。 この4月、高校に入学してから特に。 あたしが一体、何をしたというんだろう。 昔は、何をするのも一緒だったのに……。 ハクが以前のようにあたしと一緒に居るのは、何故か朝の登校時だけだ。 他の時は、まるで存在しないかのように扱われる時も多い。 あたし……。 顔を見るのも嫌なぐらいのことをハクにしたんだろうか? 全く、思い当たることはない。 でも、あたしが気づいていないだけで、ハクを深く傷つけたことがあったとしたら……? そう思うと、この暗闇の中に出ていこうとするハクを引き止めたくても、勇気が出ない。 あたしはギュッと拳を握りしめ、長い足を投げ出して、窮屈そうに靴を履く大きな背中を見た。 あたしに背を向けるその姿は、全身であたしを拒絶しているかのようだ。 「……」 玄関のドアがバタン!と閉まる。 ……きっと今夜もハクは帰ってこないだろう。 そして病院勤めの父さんとママは今夜も夜勤。朝まで二人とも帰ってこない。 一人取り残された廊下で、あたしは迷子のように膝を抱え、座り込んだ。 知らず知らず、あたしの口から堪えきれず、嗚咽がもれる……。 どうして。 あたし達はこんな風になっちゃったんだろう。
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