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栞 side:3
「おはよー、眞中君!」
「……」
今朝もいつもと同じようにあたしとハク、二人揃っての登校だった。
黄色い声で挨拶がとんでくるが、ハクはニコリともしない。
無言のまま、ずんずん歩く。
朝帰りしたハクを問いつめたい衝動をこらえながら、あたしは黙ってハクの隣を歩いた。
……どうせ、普段から朝のハクは低血圧でまともに答えてなんかはくれない。
問いつめるだけ、ムダだ。
「行くぞ」
ハクが、振りかえってボンヤリ考えていたため、遅れがちになったあたしの手を引っ張った。
それを見たのだろう。
いつも以上に女子達のねばっこい視線が絡みついてきたが、あたしはツンと頭をもたげ、校門をくぐる。
「じゃ、今日も俺は遅いから先に寝てて」
ポン、とハクはあたしの髪を撫でると自分の学年の二年の北校舎に向かった。
……反則。
幼い時からのハクのクセなことは知ってるけど、思わずときめいてしまう。
そして、あたしだけにするこの行為は、あたしがハクにとって「トクベツ」なんだという優越感に浸らせてくれるのだった。
ーーそれが例え。妹としか見てもらえてなかったとしても。
あたしは内心ニマニマとしながら、本校舎の自分の下駄箱へ向かった。
あたしが自分の靴箱を開くと、差出人名のない手紙の山がバサバサと土間に落ちる。
……またか。
これは、見知らぬ女たちからの警告文。
今朝もざっと、2,30通はありそうだ。
朝から憂鬱な気分でそれを踏みつける。
こんなことなら、靴箱に鍵でもつければ良かったわ……。
(「えー、マジ? 眞中のヤツ。呪いレター踏んだぞ?」
「コワッ、毎日よくやるなぁ。女子も……」
「眞中もスゲーな。全く動じないもんなぁ」)
「おはよー、シオ」
既にスリッパに履き替えたツインテール女子がピョコンと下駄箱から顔を出した。
「マコト、おはよ」
あたしは挨拶をかえす。
市川 麻琴は、数少ないあたしの友人だ。
「あぁ、またその呪いの手紙……」
土間に落ちているうちの一枚を拾ってマコトは片目でかざして見た。
「何か、入ってるわよ?」
あたしは、横目でマコトの手元にある手紙をのぞきこんだ。
うわ! 古典的!
……カミソリの刃じゃん。
「ヤバくない? シオ。これ、ほっといて大丈夫なの?」
マコトにしては真剣な顔で言う。
「う~ん。もうすぐ夏休みだし。犯人の見当もつかないしなぁ」
あたしは下駄箱の備え付けのゴミ箱に、カミソリの刃で手を切らないよう気をつけながら、靴箱に残っていた手紙を放り込んだ。
「シオ。これ、ゴミ箱ごと警察に持って行っていきなよ。指紋とかで犯人、見つかるかもよ?」
「そうかなぁ。でも一人捕まえても、根本解決になるとも思えないし……」
どうせ犯人はハクの親衛隊みたいな子たちだ。
ああいうのは、捕まえても次々とわいてきて、全くきりがない。
「これさぁ。それこそ、こないだからシオが言ってた絡んでくるヤツらの仕業じゃないの?」
「あ……そっか」
思い出した。
居たね。そういえば。
教室で絡んできた二人組とか。
……名前、知らないけど。
「でも、あの子たち、こんなことをする根性あるかなぁ……?」
せいぜい、あたしを言葉で脅しつけるのが関の山だと思うんだけど……。
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