栞 side:4

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栞 side:4

スッキリと晴れ上がった青い空に初夏の新緑が眩しく映える。 学校生活も慣れ、梅雨の気配が忍び寄ってきた不安定な空気の放課後。 また、変なクラスメートに絡まれても嫌なのでさっさとあたしは鞄に教科書を放り込むと地下鉄の駅へ急いだ。 「待ちなさいよ」 校門を出たところで、あたしの背中に聞き慣れない声が投げつけられた。 イヤイヤあたしが声の主の方へ振り返ると。 やはり。 見覚えのない制服を着た背の低い女と、うちの制服を着た女たちが数人、固まっていた。 (またか……) 「久しぶりね、眞中さん」 背の低いメガネ女がオドオドとあたしに声をかける。 あたしは人の顔を覚えるのは得意な方ではない。だから、同じ中学校出身だと言われても、さっぱり記憶になかった。 「誰?」 「ご挨拶ね。手紙ちゃんと読んだ?」 モゴモゴ言う背の低いメガネ女を押し退けて、ユルフワパーマの女が突然、睨みつけてきた。 「読むわけないでしょ。迷惑よ、どいて!」 あたしはキッと睨みつけると、そのまま歩道の脇を通り過ぎようとした。 が、先頭のユルフワパーマ女に両手を広げて分かりやすく、通せんぼをされる。 (はぁ……) 毎度お馴染みの、慣れっこになったこのトラブル感満載のシチュエーション。 「ハク先輩を朝から独り占めするなんて、許せない!」 「義妹のクセに馴れ馴れしい!」 とかどうせお決まりの文句を吐くんだろう。 あたしは中学校の時から、ずっと女達の陰湿な嫉妬まみれの視線にさらされながら登校してきた。今更、こんなことはどうってことはない。 それに。アイツらの言うとおり、家に帰ってからハクを独占できるのは私の特権だ。 言っていることは、あながちそれほど間違ってはいない。 いや、でも特権だった。というべきか。 最近のハクは家に殆ど居ないことが多いから。 「ちゃんと警告したハズよ。ハク様から離れなさいって」 「警告? カミソリ入りの手紙なんて立派な犯罪よ! バッカじゃないの?」 あたしの反論にボソボソと聞こえてくる声。 「うわぁ、本当に生意気」 「ちょっと可愛いからっていい気になってるのよ」 「思い知らせてやりましょうよ」 カチカチカチ。 リーダー格の女はカッターナイフを取り出すと、銀色に冷たく輝く刃をちらつかせた。 脅しているつもりだろう。 「眞中 栞。あんた、目障りなんだよね。血が繋がってないからって、兄を狙うか? このど変態! 淫乱!」 名前も知らない女達からの芸のない罵倒。 あぁ、うんざりする。 「ど変態はあんたたちでしょ? 毎日ストーカーみたいにハクをつけ回して。こっちが訴えたら負けるのはあんたたちよ? スマホで撮ってるから証拠もあるわ……」 あたしの言葉に、真ん中のリーダー格のユルフワパーマの女だけでなく、さっと周りの女たちも気色ばんだ。 あ、この女。こないだ教室にいたメイクの濃い女じゃないの。化粧が変わったから気がつかなかったわ。きっと素顔は地味なのね。 ……でもやっぱり名前は思い出せないなぁ。 「誰がストーカーよ!」 「どっちがど変態なのか教えてあげるわ!」 「ハク先輩が優しいからって調子に乗るんじゃないわよ、このメスブタ!」 キャンキャン吠える女たちに冷たくあたしは吐き捨てた。 「メスブタはあんたたちでしょ。あぁ、ブタじゃなくて欲求不満でハクをオカズにして、自分でひたすら慰めるオ○ニー狂のメス猿か」 一見、細身で童顔のあたしの口からそんな苛烈な言葉が出てくるとは思っていなかったのだろう。 悪いが言われっぱなしは性分にあわない。 リーダー格のユルフワ女は顔を真っ赤にして、あたしに近づいてくるとカッとなって手にしていたカッターナイフを振りかざした。 「なめるんじゃないわよ!」 「うわっ!」 思わず、あたしは右手で顔を覆った。 (……ったぁ……!) ビリッとやけつくように下肘に痛みが走る。 と、その時。 「何やってるんだ! お前ら!」 突然、雷のように鳴り響いた声に女たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。 右手の肘がズクン! ズクン! と痛む。 左手で触るとヌルッとした感触があった。 あぁ、結構切れてるじゃん。コレ……。 人に刃物向けるって相当イッテるな、アイツら。 「大丈夫か? シオ」 あたしの頭にポン、と大きな手が乗った。 ズキズキする右手を押さえながら、ノロノロと顔をあげる。 「リョウ……」 そこには、幼馴染の三沢 凌平(みさわ りょうへい)が険しい顔をして立っていた。
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