土用のうなぎ

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   二月──  都立高校受験の朝。 「拓哉、忘れものないね」 「ない……。じゃあ行ってくる」    アパートの玄関先でおかんが笑顔で見送る。 「あっそうだ拓哉、じいちゃんのアレ、ちゃんと履いとるか?」  名前こそは言わないが、おかんは縁起物の赤いブリーフのことを言った。  僕はVサインで返す。 「よっしゃ」おかんは握りこぶしをつくり胸元でガッツポーズをする。「拓哉頑張れ!」と激励の言葉を送った。  僕は照れ隠しに唇を噛みしめた。  それから黙って頷くと踵を返し、一歩を踏み出した。
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