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その夜──
風呂からあがった僕は、じいちゃんに呼び止められた。
「なんや?」
「ええから、ええから」
連れていかれた茶の間に、おとんとおかん、おじさん夫婦も揃っていた。
「これをタクヤにやる」
じいちゃんはカッターシャツのポケットから封筒を取り出した。
「受験生やし、しょっちゅう来られへんやろ。せやから、入学祝を先に渡してしまおうと思ってな。──祝い金はおとんに預けておく」
そう言ってじいちゃんは神妙な顔をしたおとんに入学祝いと書かれた封筒を手渡した。
「それでや、これを拓哉に」
じいちゃんは薄ぺらい化粧箱を僕にに渡した。
なぜ今?
なぜ入学祝い?
ほぼ、百パー失敗するかもしれないのに──
「早う開けなはれ」じいちゃんはうずうずしたように言った。
急かされた僕は、もたついた手で上蓋を開ける。
赤い布きれ──
僕は箱の中から摘まみ出す。
左右の手の間で真っ赤なブリーフが広がった。
ぷっと、おばちゃんが吹き出した。
僕は格好の悪さで顔から火が出そうになった。
「こんなもん履けるか!」
恥ずかしさを振り払うかのように言った。
「これ拓哉!じいちゃんに向かってなんて口」おかんが怒る。
「驚いたか」じいちゃんはニヤニヤしながら言った。「赤い下着は運気を上げる。いざ勝負のときは、このパンツを履きや。因にじいちゃんは死んだばあちゃんにプロポーズした時は、赤いふんどしやったで。さすがにふんどしは無理やろうから、拓哉は赤いパンツにしたわけや」
唖然とする僕を見て、じいちゃんはかかかと無邪気に笑った。
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