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翌朝──
「夕べ、久しぶりにおっきい兄ちゃんが夢にでてきたわい」
じいちゃんは重湯を口に含みながらぽつりと言った。
僕は朝ごはんのトーストを食べるのを止めてしまった。
「盆も近いし、夕べのウナギにつられて戻ってきたんやろう」おじさんが仏間を見ていた。
お供え膳にウナギが乗っていた。
「そうかもしれへんなぁ」
おばちゃんが教えてくれた。
じいちゃんの兄の千吉さんは先の戦争で亡くなったと。
千吉さんが戦地に旅立つ前の夜、ひいばあちゃんがウナギの缶詰を手に入れてきた。
戦地に赴く息子に食べさせようと、写真館のお得意さんから分けてもらったのだという。
「末っ子のわしは当時五歳。わしらは幼かった。おっきい兄ちゃんが戦地に行くことがどういうことなのか、わからなくてな……だから兄ちゃんばっかりいいもん食ってずるいと。
そしたら兄ちゃん一口だけ口をつけてな、腹いっぱいやと言って残りをわしら弟妹にくれたんや」
話はここで終わり。
こないな辛気臭い話はやめやめと言いながら、じいちゃんは店に行ってしまった。
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