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その日の午後──
盆前を前にして一足早く、皆で墓参りに行くことになった。
「こうして家族が揃ってお参りするのも久しぶりや」
一夏のうちに伸びた雑草を鎌で刈り込みながらじいちゃんが言った。
「親父、無理しなさんな」おとんが釜を取り上げるように草刈りを代わる。
「近藤家の男は拓哉だけや。いずれ拓哉が墓守せなあかん。今からちゃんと覚えておくんやで」
僕はおじさんから束子を渡されると、言われるがままに墓石を洗った。
八月の午後はまだ日が高く、木陰の多い山の中とはいえとても蒸し暑い。照り返す墓石を前に僕は額の汗をぬぐった。
セミが割れんばかりに鳴いている。残された僅かな時を、命が果てるその瞬間まで生き切ろうとして鳴いている。山はセミの揺りかごであり、墓場なのかもしれない。
僕は墓石を洗いながらそう思った。
「拓哉、もええぞ、十分や」じいちゃんがよしよしと目を細める。
僕は束子をバケツに戻した。
おばさんの傾けた日傘の下で、今度はおかんが墓花を供えた。
おじさんが蝋燭を立て、おとんが小さく燻る線香を寝かせる。じいちゃんが念仏を唱えると家族全員で手を合わせた。
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