旅立ち

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 答えは決まっているのだ。アイナは既にラウレンスへの想いは、蓋を閉めてしまっておく事などできない。 「ラウレンス様、私もそばにいたいです……」  ラウレンスの胸へと飛び込んだ。ラウレンスの肌を感じ、心を感じ、胸の高鳴りはおさえられない。  ラウレンスはアイナの顎を持ち上げると、優しげな瞳で見つめる。  アイナの唇をラウレンスの親指が撫でれば、アイナはゆっくりと目を閉じた。  ラウレンスの吐息が唇へとかかり、柔らかい感覚が一瞬触れた。  アイナはその感覚を香油の匂いの当てられた時に経験していると感じた。  吐息と口に触れる感触、それを思い出す。  思わず口を覆ってしまうと、ラウレンスが首を傾げた。 「どうした?」 「なんでもないんです」  もしかしたらあの時、アイナの唇は誰かの唇に触れたのかもしれない。それはレンなのか。  不安な顔をしてラウレンスの顔を見上げれば、微笑みを浮かべ、再度その唇が迫ってくる。 「大丈夫だ。怖い事はしない」  優しくラウレンスの唇が触れれば、アイナの唇の感覚はラウレンスのモノだけになっていく。  何度も何度も唇を食まれ、それに応えるようにアイナは腕をラウレンスの首へと回した。  ラウレンスの唇が離れ目を開けると、今度はラウレンスはアイナの唇を見つめ、指でなぞってその感触で遊んでいるかのようだ。 「ラウレンス様?」 「様はつけなくていい……。ラウレンスと呼んでくれないか?」  アイナは口元を緩めて、その名を口にした。 「ラウレンス……」 「ああ」  アイナの口は親指で開かれる。  ラウレンスの瞳が近づくと、柔らかい感覚が広がり、何度も何度も互いの唇を触れさせた。  その感覚がアイナから離れた時には、アイナは夢見心地だった。頭がぼーっとしている。 「アイナ……」  ラウレンスが首元に唇を押しつけ、軽く噛み付いてきた。少しの痛みと柔らかさが全身を疼かせ、吐息が漏れる。 そして、胸元の首飾りの紐を手繰り寄せた。 「これは、ロラさんから預かった首飾りか? 私が渡した首飾りは?」 ラウレンスの悲しげな瞳にアイナは言葉が詰まるも、正直に答えた。 「家の箪笥の角の木箱に保管してあります。その……身につけるのは躊躇われたので」 「何故?」 問うてくる唇にアイナは寂しい気持ちを思い出した。 「香油を買われたので、この唇が他の女性のモノだと思いました」 素直に答えれば、ラウレンスは一瞬目を見開き、アイナを抱きしめた。 「安心しろ。誰のモノではない。初めて出会った時からアイナに捧げるモノだ」  優しく微笑めば、また唇を食み始めた。  何度も何度もアイナにその柔らかな唇が覆えば、次第に快楽へと溺れ始める。  ラウレンスの唇が、首、鎖骨、胸元へと落ちてくる。そして、アイナの口からは甘い声が発せられた。その声に驚いたのかラウレンスの耳が動き、さっと身を離した。 「すまん。アイナの気持ちも確認せずに……」  アイナは首を横に振る。アイナの気持ちもラウレンスと同じだった。 「ラウレンスもっと触れて……」  アイナの言葉を聞けば、しゅんとしてラウレンスの耳が下がり、抱きしめられる。 「これ以上は、触れない。フロート様のお許しが出てからにしよう」 「娼館に行けなくなるから?」  ラウレンスが顔を赤くさせ、口元を抑えている。 「それは誰から聞いた? それは私には関係ない。出入りした事などない」  目を逸らすラウレンスの頬に唇をつけた。目を丸くしてラウレンスがアイナの顔を見る。 「分かっていますよ。ラウレンス……」  アイナが締まりのない顔をすれば、ラウレンスは頬を包み親指で撫でる。  また顔が近づいてきて、再び目を閉じた。  しかし、その唇がアイナの唇を捉えることはなかった。
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