オレ、死んだ。

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オレ、死んだ。

「あれ……もしかしてオレ、死んだのか?」  最初に思ったのは、それだった。  何だか知らねぇが身体がプカプカ宙に浮いてるし、手のひらが透けて向こう側の景色が見えてやがる。 「え……まさか……だよな」  待て待て、どうにも『死んだ』覚えとか無ぇんだけど!  スー……。  まるで水中を進むが如くに身体が前に進んでいく。   「ヤベエ! これって、もしかして『幽霊』ってヤツか?! オレ、いつの間にか幽霊になっちまったのか?」  まるでドローンで撮影された景色を見るみたいに、眼下に夕闇の迫る町並みが広がっている。 「ああ、オレの高校だ。授業をフケてタバコを吸っていた屋上が、ここからだと良く見えるなぁ」  それにしても、だ。  いや、あまりに唐突過ぎるじゃないか! どーして『死んだ』んだ? いつの間に死んだんだ?……だめだ、何も覚えちゃぁいねぇ。 「ど、どうすっかな……とりあえず、このままでは文字通り『死んでも死にきれねぇ』ってヤツだぜ。何とかして死因だけでも知りてぇもんだが……」  生前にワックスでガチガチに固めていた頭髪は、死んだ後でもその形状を『記憶』しているようだ。そう言えばブレザーの制服も着ているし。うーむ、これって『服の幽霊』なのか? よく分からんけど、とにかく裸でないのは有り難い。幽霊だから寒さは感じないんだろうが、何となく素っ裸は気恥ずかしいからな。  その時だった。 「おや? そちらの方……死にたてホヤホヤの『新人幽霊』さんですか?」  オレに話かけてくるヤツがいる。 「だ、誰だよ!」  振り向くと、そこには同じようにプカプカと身体を浮かせたスーツ姿のオッサンがいた。 「ああ、すいません。申し遅れました。私、アナタ様と同じく幽霊ではございますが『幽霊指導員』と申しまして、死にたての『新人幽霊』さんに『幽霊生活の何たるか』をレクチャーする役目を担っております」 「へ……何じゃ、そりゃ!」    『幽霊指導員』と名乗ったオッサンは、恐らく生前も愛用していたのであろうメガネをクイっと上に上げた。 「えー……まず、この度はまことにご愁傷さまでございます。さぞかし現世に心残りもあろかうと思いますが、どうぞお力落としのございませんよう」  そう言って、深くお辞儀をしてみせる。  ……つーかよ。そういうセリフって、フツーは遺族に言うモンであって『当人』に言うセリフじゃねぇよな。 「いや、あのさ……自分が『幽霊になった』ってのは、何となく分かってんだけどさ。それよりも、どうして『オレが死んだ』のか……それが知りてぇんだけど。アンタ、何か知らね?」 「いえ。私はそこまで個々の案件を関知しておりません。何しろ毎日、多くの方が『幽霊』になられますし、大抵の方が『初心者』でいらっしゃいますのでレクチャーに忙しくて」  オッサンはそう言って、澄ました顔をしてやがる。  ……ま、初心者じゃない幽霊も居ないだろうよ。
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