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オレの親
「あの……この度はまことに、ご愁傷さまで……」
さっきの刑事二人が、葬儀場の親族控え室でオレの親に揃って頭を下げている。
「いえ……あの馬鹿野郎、まさか死んでまで刑事さんにご迷惑をかけるとは……深くお詫びいたします」
クソオヤジが深く頭を下げてやがる。
……いや、オレ『殺された側』だし。今回ばかりは『迷惑掛けられた側』だし。
「それで、田中君ですが……何か恨みを買っていたとかは?」
的場刑事がメモ帳を開ける。
「恨みですか……難しいですねぇ」
クソオヤジが溜息をつく。
「何しろ、私らを始めとして『恨んでいない人間』を探す方が大変という馬鹿野郎でしたから。中学の時に無免許のバイクで大事故を起こした時なんざ、相手方の家に出向いて平謝りをしたものです」
うるせぇな!このクソオヤジめ! 死んでまで罵るこたぁねぇじゃねぇか! これでも一応『仏さん』だぞ!
「やはりですか……」
鬼岩刑事も「聞くだけムダか」という諦めの表情だ。
くそ……っ! てめぇら、揃いも揃ってオレをディスりやがって……。ホントに腹が立つぜ。気持ちだけでも『そんな事はありません』とか、言えねぇのかよ!
「あの……警察の方ではどうなんでしょうか? 何か、有力な情報とかは?」
クソババアが、おずおずと尋ねる。
「いえ……手がかりゼロですね」
的場が首を横に振る。
「いっそ、どうでしょうか? 『自殺』という線は考えられないのでしょうか?」
クソオヤジが首を突っ込んできた。
へ……自殺ぅ?! 待てやこら、何でオレが自殺なんてしなきゃぁいけねぇんだよ! 無茶言うんじゃぁねぇ! それもオレは『背後から刺されている』んだろ? そんな自殺があるかってんだ!
「そうですねぇ……無いとは言えないかも知れません」
鬼岩がもっともらしく腕組みをする。
ねぇよ! 本人が『ねぇ』って言ってんだ! 口はきけ無ぇが、耳は聞こえてんだよ!
「もしかすると、『自殺』という体だと格好が悪いので他殺と見せかけた……という線も、我々は捨ててはいません」
嘘つけぇぇ! さっきはそんな事、微塵も言って無かったろぉがぁぁ!
「しかし……あの子がそんな自殺するようにも思えませんが」
クソババアが刑事とクソオヤジの顔を交互に見比べる。
そうそう、お前もたまにはイイことを言うじゃねぇか。
そうだよ、とりあえず自殺した覚えも理由もねぇよ!
「いや……分からんぞ」
クソオヤジがしかめっ面をする。
「我々には分からない、何か深い悩みを……抱えていたのかも知れん」
抱えてねぇぇぇぇ!
「それはあるでしょうね。人間、心の奥で何を考えているかだなんて、誰も分かりはしないんですから」
的場刑事がそれに追従していく。
くっそぉ……何なんだ、てめぇら! ん……もしかして?
オレは、そっと的場に身体を寄せる。
それは、聞き取れるかどうかの、ホンの小さな囁きのような『本音』。
《いっそ……自殺の線で押すのもいいかもな。面倒な聞き込みとかしなくて済むわけだし、前途ある若者を『殺人犯』として追い込まなくて済むのなら……》
くぉらぁぁぁ! 何だよ、それぇぇ! 真面目に仕事しやがれ!
不味い……本格的に不味いぞ……このままでは、本気で『自殺』として処理されかねん!
何しろ誰も真面目に追いかける気がないしな……。
『去る者は日々に疎し』だって?
ジョーダンじゃぁねぇ。オレは猿じゃねぇんだ!
何とか……何とかしねぇと。
くそぉ! こうなったら、こっちにも考えがあるぜ!
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