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「はぁ? 幽霊が現世の人間と連絡をとる方法ですか?」
指導員のオッサンが、怪訝な顔をする。
「頼むよ! 何かいい知恵を貸してくれよ! 何とかして『オレを殺したヤツをさがしてくれ』って伝えたいんだ! そうでねぇと、これがホントの『死んでも死にきれねぇ』ってヤツだぜ!」
「そう言われましてもねぇ……」
うーん、と指導員が腕組みをして考える。
「何か秘密の方法とか、そういうのは無いんですよ。基本的に私達は人間の目にも映らないですし」
「いやでもほら『幽霊を見た』って話って、結構あるじゃんか!」
オレが必死に食い下がると。
「まぁ……そうですねぇ。私達のような幽霊はエネルギー体ですから、厳密に言うと『光っている』んですよ。ただしそれは、0.8マイクロメートルという波長の長い赤外線発光なんです。人間の可視光領域の上限は0.7マイクロメートルと言いますから、大抵の人間は視認出来ません。それに『光る』と言ってもごく弱い光ですしね。なので、稀にいる可視上限が高い『霊感の強い』人が真っ暗な場所に立てば『見える』かも知れませんが」
へぇ……そんな事になってたのか! だから『見えるヤツと見えないヤツがいる』んだな!
いや……待てよ。あのクソオヤジ以前に『見える事がある』とかヌかしてた記憶があるぞ? ……もしかしてイケるかも知れねぇ!
幸い今晩は通夜だからな。クソオヤジもこの葬儀場に泊まり込むに違いねぇ。もしかするとトイレにでも立った時に、廊下の隅で待ってたら『見える』かも知れん!
よし、これはチャンスだ! 『アピール作戦』の決行だぜ!
オレは喜び勇んで、すっかり暗くなった廊下へと待ち伏せる。
すると……。
パ……!
何もしないのに、廊下の照明が突然点灯して辺りを明るく照らし出した。
「へ?何じゃこりゃ?」
おいおい、これじゃダメだろう! 誰だよ、勝手に電灯を点けたヤツは!
「……おやおや、これの犯人は『あなた』のようですねぇ」
指導員がフワフワと浮かんでやって来る。
「え……何でオレなんだよ?」
「あのですね。ここの葬儀場の照明には『人感センサー』が付いてるんです。人間がやってくると、自動的に熱を感知してスイッチをつけるヤツですね」
オッサンが指差す先に、饅頭みたいなものが天井に付いている。
「……利用者の方から『夜、廊下の照明が消えていると不気味で嫌だ』というクレームがあったようで、その対策です。ですが、我々幽霊も『赤外線』を出しているので、それを拾って点灯してしまう事があるんです……残念でしたね」
マジかよぉぉぉ! 何だよ、そのお節介は!
だが、まだチャンスはある。クソオヤジ達が仮眠をとる時に電気を消すだろうから、その時を狙えば!
オレは親族控え室に戻った。
思った通り、仮眠用の布団が敷いてある。後は電気が消えてくれれば……!
すると。
「おや? お父さん、電気消さないんですか?」
「ああ、何となくな……気のせいか、何かこのままの方がいいような感じがしてならんのだよ」
「おやおや、お父さんも意外に怖がりですねえ。では、そうしましょうか」
やめろぉぉ! そんなところで霊感を働かしてんじゃねえ! そうじゃねぇよ、話があンだよぉぉ!!
頭を抱えるオレの後ろで、オッサンが「残念でしたね」と、頷いている。
オレは深くため息をつきつつ、その場に座り込んだ。
不味いな……こんな調子では、最悪の事態も視野に入れなくてはなるまい。
「あのよ、オッサン。ちと、聞きたいんだが……」
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