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オレの写真
結局この晩、クソオヤジ達はそのまま朝まで熟睡だった。クソが……何が『仮眠』だよ!
昔は枕元のロウソクを絶さないように気を使ったらしいが、今やそれもLEDだ。エコだか安全だか知らねぇが、風情のない話だぜ!
10時前になって、続々と弔問客がやってくる。
どいつもこいつも「この度はまことに……」とかもっともらしく挨拶してやがるけど、本気で悲しい顔してるヤツは見かけねーな。
「なあ……オッサン」
「はて、なんでしょうか?」
指導員のオッサンは、何故かまだオレの側にいる。他に新しい幽霊がいないのだろう。
「ホラ、心霊写真ってあるじゃんか。アレってどうなの? 昼間でも写るのか?」
テレビなんかだと、顔や手が写っているのを見るけれど。
「そうですねぇ。顔面や手先は若干ですが『赤外線発光』が強いので写る可能性はありますね」
そうか。ウチの地域は出棺前に集合写真をとる習慣があるから、チャンスはあるな。
……よし、アピール作戦第二段は『心霊写真』だ!
坊主が三人も来て真面目腐った読経を続けているが。
アレって、本来の目的は『死んだ人間の霊を落ち着かせる』ためなんだろ?よく知らんけど。
でも、こうして聞いていたところで、そもそも何を言っているのかサッパリ訳が分からねぇ。
んだよ、『ぎゃーてー』って。
『それ』を聞いて、オレにどーしろっつーのよ。まったく。退屈なだけじゃねぇか。
やがて読経が終わって『撮影会』になる。
用意されたひな壇に上がり、カメラマンがでっかいデジカメを抱えていて準備を始めた。
……オレはどうすりゃいいんだ? やっぱり主役だから真ん中に行きゃぁいいのか?……何かそれも違う気がするしなぁ。
しゃぁねぇ、とりあえず最上段の隅にでも並んでるか。
「あー……すいません、隅の方もう少し中央に詰めて頂けますか? 切れてしまうので」
カメラマンの助手が手で合図を送る。
……隅? オレの事か? しゃぁねぇな。写らなかったら意味が無ぇんだし、も少し寄るか。
「はーい、OKです。では行きまーす!」
うーむ。何か緊張してきたぜ。上手く写ってくれるといいんだが。ここはイッパツ気合を込めていかねぇとな!
そうして写真撮影が終わり、カメラマンが控室へと引き下がる。 式場は出棺前の花入れをしているから、ここに居ても邪魔でしかない。
それに出棺したらクルマで移動だから、そもそもオレは着いて行く事が出来ねぇ。何しろ、こっちはそんなスピードなんざ出ねぇ状態なんだからよ。
それよりもオレは写真の出来が気になって、カメラマンについて控室に入る事にした。
……頼むぞ。上手く写っててくれ!
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