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「先輩、ちょっと……いいですか?」
撮影のアシスタントをしていた男が、カメラマンをパソコンの前に呼ぶ。
さっきの写真はすでにデータとしてパソコンに取り込まれたようだ。
「どうした? 何かあったか?」
カメラマンが画面を覗き込むと……。
「ありゃりゃ、やっちまったかな? これは」
両腕を後ろに組み、うーんとのけ反る。
「で、ですよねぇ……これ」
アシスタントが青い顔で、最上段の隅を指差す。
「僕、何か見えたんですよ。『変なヤツがいるな』って……」
お? どれどれ……。
オレは画面に顔を近づける。
……よし! やったぜ。それほど『くっきり』では無いにしろ、何処と無くボンヤリと『何か顔のようなもの』が写っている。
うむ、とりあえずは上出来だ。後はこれで『オレが何か言いたそうにしている』と気づいてくれれば……!
「お前は経験が浅いから知らんかもしれんが、葬式場で写真を撮ると、タマにこういう『理解不能なもの』が写ることがあるんだよ。別に珍しいことじゃない」
ほう、割と皆同じことを考えるんだな。
よしよし、後はこの写真をあのクソオヤジか刑事に見せて『何か思い残しがあるようですよ?』とか教えてくれれば……!
「で、どうするんです、これ?」
困惑の表情で、アシスタントが画面を指差す。
「それか? ああ決まってるよ。そういう場合はだな」
カメラマンがパソコンの前に座る。
「こうして、背景のデータをコピーしてだな……後はこの『顔』みたいなものを背景のデータで『塗り潰す』んだ」
やめろぉぉぉ! 折角の力作がぁぁぁぁ!
「い、いいんですか、それ……? 何か祟られそうですけど」
アシスタントは不安な顔をしている。
いやいや、いい訳ねーだろ! 止めろよ! 行け、そこは押せ! 本気で祟るぞ、この野郎! ……やり方知らんけど!
「祟られる? 心配すんな、そんな経験ないからよ。それに『こんなモン』、お客様に『はいどうぞ』なんて出せると思うか? 気味悪がられるだろうが。そしたら『葬儀で写真を撮るのは良くない』なんて噂が立ちかねんぞ」
う……商売か。確かにそんな噂が出たら『じゃぁ写真を撮るのは止めましょう』となりかねん。……なるほど、そういう事情もあんのかよ。世知辛い世の中だぜ!
かくして、オレの『心霊写真作戦』は見事失敗に終わった。
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