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オレの『言葉』
「あーあ、中々上手くいかねーなぁ」
ため息をつきつつ、オレは式場に戻ってきた。
オレの棺は親族と共に焼き場に向かった後らしく、残っているのは『その他大勢』の参列者だけだ。
「なあ、オッサン」
オレは再び指導員に話掛ける。何しろ今のところ話が通じるのはこのオッサンだけなのだから。
「直視がダメで、心霊写真がダメで……何か他に手はねぇのかよ」
「そう言われましてもねえ」
オッサンは少し考えるような素振りをしてから、思い付いたようにポンと手を叩いた。
「出来るかどうか分かりませんが、もしかしたら『スマホ』が使えるかもです。スマホのタッチパネルは物理的押しボタンではなく静電気式ですから、上手くエネルギーを集める事が出来れば」
「え! マジかよ、さすが文明の利器だぜ! まさかそんな方法で現世と繋がるたぁ思わなかったわ!」
辺りを見渡すと、幸いな事に同級生達がまだ残っているではないか! チャンス! しかも、学級委員長のヤツがタイミングよくスマホをイジってやがる。
この依存症野郎めが。どうにもいけすかねえスカした男だが、今回ばかりは頼りになるぜ!
オレは委員長のスマホが文字入力の画面に切り替わった瞬間を狙い、全精力を振り絞ってフリックを試す。
『た……す……』
くそ!出来なくはないが、鬼のようにエネルギーを食うぜ! 一字打ち込むだけで死にそうになっちまう……って、もう死んでんですけど!
「おや……? 何だ、これは」
委員長が画面を見て眉をひそめる。
そうそう、頼むから気づいてくれぇぇ!
『け……て……』
ああ、ダメだ! もっと打ち込みたいけど体力が持たねぇ! おっと、死んでるから体力じゃなくて霊力か?
だが、これで……!
「うわぁぁぁぁ!」
委員長がスマホをブン投げた。
「で……で……出たぁぁぁぁ!」
ガタガタ震えながら、床に投げたスマホを指差す。
「どうした! おい、委員長! 何があったんだ!」
一緒に来ていたクラスの同級生が慌ててやってくる。
「い……い……今よ、た、た、確かにスマホが勝手に文字を打ち始めたんだ! た、た、『たすけて』って出てたぁぁ!」
よしっ! とりあえず意思は伝わったぞ!
オレはガッツポーズをする。
これなら……っ!
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