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オレの決断
オレが決意した『最後の手段』。
それは『憑依』だ。
昨晩、オレは指導員のオッサンに『他人に乗り移るとか出来るのか?』と尋ねていたのだ。
オッサンは『あまり期待は出来ないですよ』って言ってたけど。
そもそも強い意思を持つ人間には憑依は出来ないし、意思の弱いタイプであっても、『チョンと心を押す程度』しか効果はないんだとか。
だから『難しい』って話だが。
けど、もう事ここに至っては、そんな話をしてる場合じゃねぇや。それでも若い女性なら割と効果が出やすいらしいし、強硬手段に出させてもらうぜ!
……どうだ? 誰か『憑依しやすそうなヤツ』は居ないものか……いた!
オレの目に、聡美が映った。
可哀想に、目に涙を溜めて細かく身体を震わせてやがる! 坊主が怖いんだろうな……。
けど、すまん。ここは少しの間だけ身体を貸してくれ! 用が終わったら、すぐに出ていくからよ。
オレは意を決して、聡美に幽体を寄せた……その瞬間!
こ……こ、これは!
オレは思わず聡美から離れた。
次の瞬間。
「きゃぁぁぁぁ!」
聡美が絶叫をあげ、その場に座り込んだ。
「どうした、聡美!」
担任が慌てて頭を抱えて蹲る聡美の元に駆け寄ってくる。
「いゃぁぁぁ! やめて! 来ないでぇぇぇ!」
聡美は半狂乱状態だ。
「おいおい、どうしたと言うんだ?」
委員長もオロオロしている。
いや、オレには分かっている。というか、『今、知った』それは……。
「まさか、死ぬだなんてぇぇ!少し脅かすだけのつもりだったのよぉぉぉ!」
聡美が激しく首を左右に振り乱す。
「お……お前、まさか!」
担任が思わず絶句する。
「だって、だって、刺したら死ぬだなんて、思って無かったからぁぁ!」
待てやコラ! 刺したら死ぬだろうが!普通! オレは漫画のキャラじゃ無ぇんだぞ!
「……ちょっといいですか。お嬢さん。少しお話を聴きたいのですが」
後ろには、いつの間にか鬼岩刑事が立っていた。
「あなたが『刺した』というのは本当ですか?」
淡々と語りかける。
「……はい。本当です」
少し落ち着いたように、聡美が頷いた。
……マジかよ。だが、幽体を寄せた時に聞いた言葉も『同じ』だった。間違いはない。だが……何でだよ。
「実は……私は田中君から告られてて……断った事があるんです」
ああ、そうだな。悪いことをしたよ。
「そしたらその後、彼がストーカー紛いの行動を……」
へ? ストーカー? おいおい、オレはそんな事をした覚えは無ぇぞ! こら、いい加減な事をっ!
オレは慌てて再び聡美に幽体を寄せて『心の声』に耳を傾ける。
《……ホントに田中君の幽霊が出てくるなんて、思ってもみなかったわ……。でもまさか『ストーカーされるとヤだから、刺して入院させようとしたら死んじゃった』なんて言えないし! ここはどうにか『ストーカーされてた』で乗り切らないと!》
くそがぁぁぁぁ!
『何で死んじゃったの』って、そういう意味だったんかぁぁ!
オレは愕然として、その場にヘタリ込んだ。
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