オレ、死んだ。

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「そもそも幽霊とはですね」 指導員と名乗るオッサンが、コホンと咳払いの真似をする。 「死んで肉体から離れた魂が、何らかの『思い残し』があって現世の時の姿を留めたものです。ですから『もう何も思い残しはない』となれば、そのまま魂も形を失い、えー……めでたく『成仏』となります」 「そんじゃあアレか? オレが『幽霊』になったのも、『何か思い残し』があンのかよ? あ、あんま覚えが無ぇけどよ……」 「恐らくは。まあ、大抵の新人幽霊さんは『とりあえず自分の葬式を見ないと落ち着かない』って、おっしゃいますけどね。『人生最後のビッグイベントだから』と。その可能性は高いのでは?」 ……ビッグイベントねぇ。まあ、『気が済む』?って言えばそうなのかもな。 「如何でしょう?とりあえず、ご自分の葬儀に参加されては。それでご納得頂ければ、そのまま成仏ですし」 「あ、ああ、そうだな。このままボゥとしててもアレだしよ。まずはそうしてみっかな。……ところで」 近くにある葬儀場目掛けて飛びながら、恐る恐る尋ねてみる。 「その……『成仏』って、出来なかったらどうなるんだ?」 ……ちっ!思ったより速度が出ねぇぜ。幽霊って遅いのか? 「……『それ』ですよ、それ。アナタ、ご自分が『遅い』って感じられたでしょ?」 指導員がオレを指差す。 「え……な、なんで分かったんだよ!」 「当たり前です。我々は『魂』の存在ですから、全ての思考が『心の声』として外に出てしまうのです。ま、隠し事とかは出来ないと思ってください」 「マジかよ!」  意味はなくとも思わず口を手で押さえてしまう。 「それはともかく、幽霊は『思い残しが』と言いましたが、そうした『煩悩』があればあるほど幽霊は『重く』なって、遅くなります。その反対に『成仏』に近くなるほど『軽く』なってスピードが出るのです」 「スピードが出るぅ? どの位だよ」  あんま、猛スピードの幽霊ってのもイメージじゃねぇが……。 「そうですね。先月行われた『幽霊怨燐火苦』における『地球一周レース』の優勝タイムは『0.992秒』でした。これは大会記録です。ギリギリまで煩悩を削りつつ、かつ成仏寸前の状態を保つ高度な幽体維持のなせる『プロアスリート幽霊』の技です」 「『プロアスリート幽霊』って何だよ! フィジカルの強い幽霊とか、ワケが分かんねぇ! つか、地球一周を1秒以下ってマジかよ……そういうのにも『ガチ勢』が居るとは、世界は広いぜ。何でそこまで追求したいのか知らんけど」  だが、しかし。その反対に……では『煩悩』が増した、その先にあるのは。 「んじゃぁアレか? 逆に煩悩がガッチリ伸し掛かったら最終的には……」  あまり言いたくは無いが。 「ええ。『地縛霊』として、その場から動けなくなるパターンもあります。ま、最近は少ないですけどね。皆さん、割と諦めがよろしいようで」  さも『当然』とばかりに、指導員が言い放った。 「さて、着きましたよ。あそこでしょう、葬儀場は」  指導員の指差す先に、灯りが灯って駐車場に車が沢山止まっている葬儀会館があった。
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