オレの葬式

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オレの葬式

 街外れにポツンと佇む葬儀屋の入り口に、オレの名字である『田中家』というデカい看板が出てやがる。  ……どうやら『今日の主役』はオレらしいな。認めたくねぇけどよ。  受付に、親戚のオジキと学校のクラスメイトが神妙な顔をして突っ立ってやがる。うーん、オレも挨拶とかしないとダメなんか? 「あのー、この度はどうも……」  ……って、やっばオレが言うセリフじゃねぇやな。  幽霊だから別に気を使う必要もねーんだが、何となく居心地が悪くて隅の方からコソコソと式場の中に入る。  祭壇の中央に白い棺桶があって……不細工なツラぁ晒した男がエラそうに寝てやがる。ああ、やっぱしオレだわ。洗面所の鏡に映るのと同じ顔をしてるぜ。  ふと周りを見渡すと、制服姿の同級生がチラホラ来ていた。……少ねーな、やっぱし。ふん! しゃーねーけどよ。 「気のせいかも知れませんけど?」  後ろから着いてきた指導員のオッサンが、キョロキョロと参列者の顔を伺っている。 「お若い方の葬儀の割には……何か、あまり皆さん『悲しそう』って雰囲気無いですね? 普通お若い方の葬儀ってもう少し『やりきれない感じ』なんですが」 「うるせぇよ! ズケズケ言うな……って言ってもムダか。心の声はそのまま口に出るんだからな」  ああ、分かってんだよ!『そんな事』はよ! 「……何しろ、オレは『嫌われモン』だからさ。死んで悲しむヤツなんていねぇさ。ま……『アイツが死んでくれてセイセイするぜ!』ってヤツばかりだろうよ!」 「おや?あまり素行がよろしくなかったので?」  指導員は祭壇の花をしげしげと眺めていた。 「まぁな。オレは先公より警察の方が『知り合い』の数が多いくらいでよ。見てみろ。オレのクラスは35人いるはずなんだが、4人しか来てねぇ。アイツら可哀想に『代表』で『来させられた』んだぜ、きっとよ。クラスメイトが死んだのに、誰も列席しないって訳にもいかんだろうからな」  来てる連中も、一様に顔が渋い。『悲しい』って言うより『何でオレが』ってツラだな、アレはよ。 「そうですか……じゃぁ、逆に『成仏』はし易いかも知れませんねぇ……。誰もアナタの事を『悲しもう』としないとすれば」  指導員は淡々としている。仕事と言えばそうなんだろうけど、何か癪に障るな。 「……何しろ『何で死んだんだぁ!』みたいな死に方をされた人は現世に引っ張られて、後々苦労されるので。……どうでしょうか? 皆さんの『心の声』をお聞きになっては。そういうご事情でしたら早く現世に踏ん切りが着いて、お早い成仏も可能かも知れませんよ?」 「こ……『心の声』ぇ? ンなもの、ど……どうやって聞くんだよ?」 「ああ、簡単です。こうして……心の声を聴きたいと思った人にご自分の幽体(からだ)を寄せるんです。心の声はその強さに比例して外へ漏れるので、我々であれば近くに寄れば聞く事が出来るんですよ」  そう言って、指導員は参列席に座って難しい顔をしている学級委員長にフワリと近寄った。 「ふーむ、なるほど。仰る通りでした。《イヤな時に学級委員長に当たった》とお嘆きのようで」  ……分かってはいたが、改めて聴くと腹が立つな。
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