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オレの思惑、外れる
「しまった……完全に選ぶ相手を間違ったぜ!」
折角『少し軽くなった幽体』が、振り出しに戻っちまった。
あの野郎、生きてる時には『このくそ野郎めが!』と思ってたけど、案外アツいヤツじゃねーかよ!……あーあ、生きてる内に打ち解けてたら、いい友達になれたかもな。
だが、今はそんな後悔に縛られる訳にゃあいかねえ。何しろ幽霊ライフを楽しむためには、もっと『身軽』にならないと!
「ちっ!仕方ねえ…もっと、ヘイトを溜めてそうな相手を探すか……お、アイツだ!アイツならオレが死んでホッとしてるに違いねぇぜ!」
読経が終わってぞろぞろと出てくる参列者の中に、オレの担任がいる。
なんやかんやで、散々に迷惑を掛けた先公だ。さぞかしオレが死んで嬉しいに違いあるまい。
よしよし、頼むぞ……!
オレは、喫煙場でタバコに火を付ける担任に近寄った。すると……。
《まさか田中が死ぬとはな……呆気なさ過ぎてビックリするが……》
うんうん、それで『嬉しい』だろ?そうだろ?な?
《しかし、『出来の悪いやつほど可愛い』とは言うが、生きてる時はホントに手を焼いたし、正直『自主退学でもしてくくれば』と願いもしたな》
……そーだよなぁ。まぁ仕方ねぇよなぁ。いくら他に行き先が無いような馬鹿が集まる底辺高校とは言え、廊下をバイクで走ったりとか無茶したしなぁ。よしよし、そんな感じで嫌ってくれりゃぁ有り難てぇんだよ!
《だが……》
え?……何? なんか雲行きが……。
《ふふ……イザとなると『手の掛かる生徒』ってのは、何の印象も残らない生徒よりカワイイもんだな………出来れば、もっと話し合あってみたかったものだ……》
おいおいおい! 止めろって! 青春ドラマの次は学園ドラマかよ! そーゆーの困るんだって!……うぉ!
オレの幽体が、また少し『ズン……』と重みを増す。
「くそっ……しまった! またしても失敗した! ダメだ、すぐにここを離れねぇと……!」
ほうほうの体で、その場を逃げ出す。
はぁ……はぁ……何だよもぅ!心臓も肺も無ぇはずなのに、息が切れるぜ!……って、とっくに『切れてる』んですけども!
「しかし、参ったな……人生上手く行かねぇモンだと思っちゃぁいたが、まさか死んでまで『上手く行かねぇ』とは思わなかったぜ……。さて、どうすっかな……もっと確実に『死んでくれて嬉しい』と思ってるヤツを探さねぇと……」
ふらふらと式場の中を漂う。
気のせいではなく、明らかにさっきより『高度』が落ちてやがる! 早く何とかしねぇと……!
「おや?……いたよ、いたよ! 間違いなく『オレが死んで嬉しいヤツ』が!」
親族控え室で椅子に座っていたのは、オレのクソババアとクソジジイだった。
「よし……アイツらいつも『こんなのウチの子じゃない!』って叫んでたしな! どうよ? お望み通り死んでやったぜ! 嬉しいだろ?な、ここは頼むから『嬉しい』って言ってくれ!」
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