対角

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最初に朋子と話したのは、人の来ない、放課後の図書室。 取り立てて部活動もしてない俺は、少しでも内申を獲得したくて、自ら志願した万年図書委員。 テスト前だけ混み合うくらいの、楽な仕事だった。何より本が読める。申請さえすれば、新書だって手に入る。友達からのめんどくさい誘いの体裁のいい断り文句にも使える。 ほぼ打算で成り立つ俺の放課後に、不意に現れた女の子だった。 和田朋子(ともこ)。彼女は学校一のイケメン。いや、この地域でって言っていいくらい有名な男子生徒、大友君の“幼なじみ”だった。 だから、知ってた。もし、彼女が彼の幼なじみじゃなければ、俺は彼女を知らなかったと思う。 もし、彼女が彼の幼なじみじゃなければ 俺はこんなに………… 馬鹿だな、俺は。 どこかで安心していたのだと思う。 彼と彼女は、釣り合ってない。そんな風に、安心していたのだと思う。 「やっぱりこの本……買おうかな」 夢中になって読んでいた本を読み終わり、そう呟いた時だった。 「そんなに面白かったの?」 後ろから声がして、ビクリと跳ねた。 驚いた、本に入り込んでいたせいで、うしろに人がいたなんて……。 「……ああ、大友君の……」 彼女の顔を見て、ボソッとそう言った。 確かに、面識がなかった。だけど、彼女の事を知っていた。 “彼の幼なじみ”だから、知っていた。 彼女はムッとして 「嫌だな、そんな覚え方」 そう言った時の、子供みたいな膨れっ面に吹き出した。 「……ごめん、そんな顔しなくっても」 俺が笑うと、彼女もその膨れっ面を崩して微笑んだ。 「読む?」 彼女にその本を差し出した。ここに来るということは、彼女も本を探しに来たのだろうから。
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