7 電話ボックス

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 きょとんとした顔を浮かべる異世界人に、男は笑顔を見せた。実を言うと、彼が電話ボックスから出てきた時点で、彼がこの世界の人間でないことは、既に理解していた。なぜなら、男はその電話ボックスの怪異のことを知っていたからだ。  あの電話ボックスは、こちらの世界(・・・・・・)と、別世界とを繋ぐ機能を持っている。中に入った人間を、別世界の電話ボックスへと転送してしまうのだ。  そしてこの低身長な男性も、別の世界からやって来たと思われる。向こうの世界は、東京都が東宮都になっていたように、必ずしもこちらの世界と同じものとは限らない。  彼の子犬のようにおどおどした様子からして、この東京の綺羅びやかなビル群も、向こうの世界では珍しいものなのかもしれない。さらにはこの男の背丈が大人にしては低いのも、向こうの世界の特徴なのだろうか。  これに関しては、個人的な好奇心が絶えないが、怪異はすみやかに解決しなければならない。それに、このままではこの異世界人の気が狂ってしまうかもしれない。  「すぐに元の世界に帰してあげましょう。ああ、一応言っておきますが、別に私が君を連れてきたって訳ではありませんよ。あなたをこっちの世界に連れてきたのは、あの電話ボックスです」  男がそう言って電話ボックスの方へ歩いていくと、異世界人もその後を追った。  「よくわかりませんが、とにかく僕を帰してください!僕はどうすればいいですか?教えてください!」  「そんなに焦らないでください。ちゃんと私がなんとかしてあげます」  ふと男が振り返ると、異世界人は真っ青な顔で男を見上げていた。  「まあ、私がこの電話ボックスの怪異を解決すれば、帰れますよ。あなたをこの世界に存在させているのは、この電話ボックスの怪異ですから、怪異自体を消失させれば良い話です」  「あの、あなたは一体どういう……」  「私はこっちの世界の住人で、多賀谷と申します。こういう怪異を解決するのが生業です。それより、早速今から怪異を解決しますから、心の準備をしておいて下さい。こっちの世界に未練が無いように」  男はそう言って笑みを浮かべると、異世界人はしばらく何か考えるような素振りをしながらも、大人しく男の側に立ちつくしていた。そんな異世界人の様子を見ると、男は小さく頷き、電話ボックスに手をかざし、目を瞑った。  都会の夜は一切休むことなく、常にどこかから環境音を発している。向こうの世界の夜の町は、もっと静かに寝静まっているのだろうか。  やっぱり、もう少し異世界人にインタビューしておいても良かったな、などと思っていると、ふと大きな手応えを感じた。  男はゆっくりと目を開けて、後ろを振り返った。異世界人の姿は、影も形も無くなっていた。  こういう謎は、調べれば調べるほど野暮なのかもしれないな、と男は思った。だから男は、ここは素直に怪異が解決したことを喜んでおいて、あとは自分で妄想を膨らませることにした。  すっかり慣れてしまった都会の雰囲気を感じながら、男は静かに歩き始めた。 
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