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6 外の世界
窓から差し込むあたたかい日差しと、微かに聞こえる小鳥たちの鳴き声に、僕はゆっくりと目を開けた。目の前に映し出される日常の風景は、一気に僕を夢の世界から引き戻してくれる。
どうやら僕は、カーペットの上で眠ってしまっていたらしい。僕が起き上がると、すぐ側のソファーに座ってテレビを見ていたお母さんが、こちらに気がついた。
「あら、タロちゃん。こっちおいで」
お母さんは優しい笑顔を作ってそう言うと、リモコンを持ったままこちらに歩いてきた。そして、よいしょと僕の体を持ち上げると、足早にソファーに戻って、僕を膝の上に載せてくれた。
僕はそこから、リビングをぐるりと見渡した。さっきまで寝転がっていたカーペットと、色んな映像を次々に映し出すテレビと、たくさんのお菓子が入った冷蔵庫のあるキッチン。右手の窓は明るいお庭に繋がっていて、真っ白な天井には、夜になったらオレンジ色に光る丸い照明が引っ付いている。僕はこの当たり前の風景が大好きだった。
ふと、キッチンの方から軽快なメロディーが聞こえてきた。
「ちょっと待っててね」
お母さんは僕の顔を見て言うと、僕をソファーに置いて、キッチンへと向かっていった。僕はそれを見届けると、意味もなくソファーでごろごろし始めた。それからソファーを下りて、リビング中をふらふらと歩き回った。
勝手にキッチンに行くと、お母さんに叱られる。だから僕は、反対方向の窓側へと向かっていった。
窓に近づくと、お母さんがいつも乗っている銀色の車が止めてあるのが見えた。さらにその脇に、きれいな赤い花が植えられている。名前は知らないけど、お母さんはあれを大切に育てているのだ。特に今朝は、大分長い時間あの花の側にいた気がする。
おうちの中もいいけど、外の世界を見てみたい。僕は時々、そう思うことがある。でもなぜか、お母さんは僕を外に出してくれない。お母さんが玄関を開けた隙に出ていこうとしたことがあったけど、お母さんは「だーめ」と笑いながら、僕の体を抱えて、リビングまで連れ戻してしまった。
僕が出来るのは、この窓からあの赤い花を眺めることくらいなのだ。だから今日も僕は、特に何を考えるわけでもなく、べたっと窓に張り付いていた。ところがしばらくすると、僕はあることに気がついた。窓が少しがたがたするのだ。
僕はおそるおそる、窓をスライドさせた。すると、いつも締まっているはずの窓が、がらがらと音を立てて開いてしまった。
僕はぞくぞくしながら、後ろを振り返った。お母さんは、相変わらず忙しそうにキッチンを右往左往している。僕は心を決めて、庭へと飛び出した。
お母さんの赤い花。ぴかぴかに光るかっこいい車。心地よい日差し。窓ガラス越しに何度も見てきたもののはずなのに、直接見てみると、全てが新鮮に感じられた。
僕はしばらく庭をうろちょろしたあと、遂に道路へと出た。道沿いには、たくさんのきれいな家がずらりと並んでいた。僕はそれらを眺めながら、悠々と道を歩いていった。
道には、いくら歩いても壁がない。どこまで行っても、終わりがない。外の世界はこんなに広かったのだと、僕は感動した。そして、無意識のうちに走り出していた。
「タロちゃん!」
後ろから、お母さんの呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、こちらに向かって走ってくるお母さんと、そのお母さんのさらに前を走る、コートを着た男の人が見えた。
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