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1 愛おしき座敷童子
眠りの世界から追い出されると同時に、平蔵の意識はゆっくりと現実へと帰ってくる。暖房の効いた部屋、居間の古臭い匂い。あらゆる刺激によって、平蔵はようやく目を開けた。
机の上の小さな時計が、昼の四時半を示している。少し昼寝をしようと思うと、あっという間に夜が近づいてくる。平蔵は、どっこいしょという掛け声に合わせて、静かに座椅子から腰を上げた。すると途端に、腰に電流が走ったような痛みを覚えた。
平蔵は、一日一日が過ぎていく度に自分の身体が老いていくのを感じていた。それはすなわち、自分が一歩一歩死に近づいているということである。平蔵にはそのことが、怖くて仕方がなかった。
平蔵は縁側に出て、大して手入れもしていない、だだっ広い庭を眺めた。平蔵にとって、庭になど何の価値もない。どうしてふと、足元のあたりから、チュンチュンという鳴き声がした。見ると、何羽もの雀が、だだっ広い庭を我が物顔でうろついていた。
平蔵はそれを見ると、思わず眉間に皺を寄せた。この頃なぜか、この時間になると、雀がピーチクパーチク騒ぎ始めるのだ。
平蔵は庭に出ると、足元に置いてある水の入った入れ物を、思い切り蹴り倒した。
「やかましい!」
そう叫ぶと、雀らは皆一斉に、近場の電線へと逃げ出した。冷たい水が、庭の土の上をたらたらと流れていく。濡れた地面の上では、めだかのような小さな魚が何匹も、その体を震わせていた。
そうだ、思い出した。この入れ物には、めだかを飼っていたのだった。
「ああ」
平蔵はそう呟き、しばらく無心でその場で立ち尽くしていた。そしてやがて、何事もなかったかのように、ある部屋へと向かいはじめた。どんなことがあろうとも、あの娘を見ることさえできれば、他はどうでも良いのだ。
平蔵は濡れた足も拭かずに廊下を進むと、突き当りの襖を開けた。
あの娘はいつからかこの家に現れ、それからずっと、この畳の部屋にいる。可愛らしい着物を着て、部屋の隅に佇む娘の姿を、平蔵は頭に浮かべた。彼女はきっと話に聞く、家に富をもたらす座敷童子という奴なのだと、平蔵は信じていた。
自分は気が違ってしまったのだろうかと思うこともある。だが、もはや自分ではどうすることもできなかった。ただ、今は何かにすがっていたい。あの娘が、幸せを呼ぶという存在が、唯一の心の拠り所なのだ。
平蔵はいつもの様に部屋に入ると、部屋の隅でちょこんと正座する小さな娘を、取り憑かれたように眺め始めた。
娘は一言も喋らずに、じっと平蔵の方を見ているだけである。それでも平蔵は、この娘と居るというだけで、心が安らぐ気がするのだった。
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