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「……休みだけかあ」
確かにサーシャの契約を終了すると言われるよりはずっとましだ。
でも週末——それも、おじいさんの家で過ごす日も作らなければいけないとすれば、やっぱりサーシャといられるのは週に一日。
僕はさっきのおばあさんの話を思い出す。
おばあさんとおじいさんは、別々に暮らすようになってから前よりも仲良くなったと言っていた。前は一緒にいると喧嘩ばかりで……というとまるで僕とサーシャみたいだ。
もしかして僕たちも、ときどき会うだけならもっと仲良くなれるのかも——いや、やっぱりそれじゃ駄目だ。
僕は言葉を強めた。
「駄目だよサーシャ、ときどき会って思いだしてもらうなんて、僕は嫌だ」
「アキ、あのご老人たちと私を一緒にしないでください。思い出すどころか、私はいつだってあなたのことを考えていますよ。もちろんあなたが目の前にいないときだって、ずっと。だから赤ちゃんみたいに感情的になるのは……」
「違うよ! そういうんじゃなくて僕はさ!」
思いどおりにならないときに「赤ちゃん」という言葉でごまかす作戦にはもうだまされない。だって、これは子どもっぽいわがままではない。むしろその逆だということを僕は知っている。
「好き」という感情や「大切な人」とは何であるかをいろんな人に聞いて、その上で僕は誰より大切で一緒にいたい相手はサーシャだと思った。前よりも少しだけ大人の感情を理解して、だからこそサーシャと離れたくないと言っているのだ。
でもその気持ちを改めてここで口にするのはなんだか恥ずかしくて、僕は口をつぐんでしまう。
そのときだった。
「君……」
僕とサーシャの会話をさえぎるように、頭上から男の人の声が降ってきた。
一体何事かと顔を上げるとその人——年寄りでもないけどすごく若くもない、スーツを着た男の人は、じっと僕たちを見ていた。
いや、「僕たち」ではなく「サーシャ」を。
「知り合い?」
サーシャにきいてみる。でも、もしサーシャが知っている人なら、僕だって知っているはずだ。だってサーシャが買い物に行く店にはだいたい一緒に行ったことがあるし、そのほかの場所だって全部。だから僕の知らない人をサーシャが知っているはずはない。
実際にサーシャは顔色ひとつ変えないまま「いいえ」とつぶやき、男の人にそっけなく言った。
「どなたですか?」
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