3. 僕と機械仕掛けと思い出

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 男の人は、サーシャが彼を知らないことに驚いたようだった。 「覚えていないのか?」  その態度はひどく馴れ馴れしく見えて、むっとした僕は割って入る。 「おじさん、ロボットに何か用?」 「ロボット?」  彼はますます目を丸くする。 「そうだよ。お母さんが僕のために契約してくれた。もうずっと、長いあいだ僕と暮らしてる」 「子どもと……ってまさか、育児支援なのか」  戸惑いながら僕とサーシャを見比べる男の人に向かって、サーシャは事務的に言った。 「ええ。私はこちらのアキヒコ・ラザフォード様の育児教育支援のために契約いただいている、電子的家庭支援社(エレ子トリック・ファミリー・サポート)の家事育児支援ロボット、AP−Z92−M。必要があれば登録証と法定検査の証書も提示できます」  これは、外を歩いていて急にを受けたときの、サーシャの決まり文句だった。  ロボットと人間が歩いていると、ときどき見知らぬ人に話しかけられる。それは人型機械(ヒューマノイド)管理局の監査官で、街にあふれるロボットが合法か、きちんとメンテナンスされていて誤作動などの危険性がないかを確かめるため抜き打ちで検査を行っているのだ。  契約にも検査にも問題のないサーシャは淡々と製造情報を明かし、必要があれば持ち歩いている証明書を取り出す。問題など起こりっこない。  この人も人型機械(ヒューマノイド)管理局の人だろうか。だとしたら嫌な感じなのも当然だ。  いくら、ルールを守って安全にアンドロイドを使うために必要だと言われても、僕は彼らを好きになれない。だって僕の友達だったビビを「違法なアンドロイド」だからと連れて行ってしまった人たちだから。  サーシャがあまりに堂々していたからか、彼はうろたえたように何度か首を振って、ぎこちない作り笑いを浮かべた。 「いえ……そうか、育児ロボットね。どうやら勘違いだったようだ、申し訳ない、失礼した」  そして、一緒にいた女の人に目で合図すると、並んで店を出て行った。 「何、今の……」  証明書を見たがらなかったところを見ると、管理局の人ではなかったのだろうか。わけがわからずぽかんとしていると、サーシャは「人違いでしょう」と言った。
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