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「正確には〈ロボット違い〉でしょうか。こういうこともたまにはあります」
「ふうん、そんなもの?」
あまりにあっさり流されてしまったからか、そんなものかと僕も納得してしまった。
それから気を取り直して僕は、密かな考えをサーシャに打ち明ける。
実は今日、シルビアの件以外に、僕の進学問題についても改めてベンに相談した。そして、いいアドバイスをもらったのだ。
「ところで名案があるんだ。こういうのは〈折衷案〉っていうらしいんだけど」
「難しい言葉を覚えましたね」
「おじいさんの出身校に行くのは、あきらめてもらおうと思う。代わりに、寮に入らなくていい学校を探す」
あのパンフレットの学校は、このあたりでは最も伝統の古い良い学校だと言われている。ただし、そこ以外にも歴史があって評判の良い学校はいくつもあるらしい。そして、中には全寮制ではないものもある。
「そりゃ、おじいさんはがっかりするだろうけどさ、代わりにうんと勉強するし、何ならおじいさんの仕事も手伝うよ。二番手や三番手の学校出身の立派な人だってたくさんいるから、そこでも勉強もできるし人脈もできるってベンのパパも言ってたらしいよ」
「簡単に言いますね。確かに老舗の有名校にも最近は通学を許可するところが増えているようですが、ベネット氏がそれで納得するかどうか。彼はあなたをいかにして〈立派なサー・ラザフォード〉にするかで頭がいっぱいなのですから」
「サーシャは気にしないでいいよ、僕が交渉するから」
記憶を失いつつあるおじいさんは言った。愛する人と一緒にいることよりも重要なことなんて、人生にはないのだと。だから僕は他の何よりも、僕にとって〈大切な人〉であるサーシャと過ごすことを優先する。
ただしおじいさんとベネットさんのことも大事だから、その学校には行かなくとも、期待されるものを身につけられるように、ちゃんと頑張るつもりだ。
力説する僕の話を、サーシャはただの夢想だと思ったのかも知れない。
「頼もしいですね。まあ、あなたが自分で納得いくまで考えて、後見人を説得できるならいいんじゃないんですか。私はどっちだって構いませんよ」
まともに受け取っていない素振りで、それでもサーシャの表情は明るい。
「馬鹿にしないでよ。ベネットさんなんかに負けないんだからさ」
僕はアイスクリームが溶けるスピードに負けまいとスプーンを口に運びながら、目の前にいる僕の機械仕掛けを見つめる。
大丈夫、きっと僕とサーシャの暮らしはこのまま続いていく。そう信じて、祈りながら。
(終)
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