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修学旅行
マリンが小学6年生の修学旅行に、サキトさんは写真屋として同行した。みんなの集合写真を撮ったり、生徒一人一人や友だち同士の記念に残るようなベストショットを撮って販売するためだ。
マリンはどんな理由であれ、サキトさんが修学旅行に同行してくれることが嬉しくてならなかった。みんなの食事風景を写真に撮るため、みんながいなくなってから一人で食事をしていたサキトさんの横に座り、マリンはおしゃべりを楽しんだ。サキトさんは映画の仕事をしたくてアメリカのハリウッドで映画撮影の手伝いをしていた話や、そこで仲良くしていたブラジル人の男友達が交通事故で死んだ話などを聞かせてくれた。マリンは異国の情景を思い描きながら、大人の会話をした気分になり胸がときめいた。
修学旅行が終わり、写真が学校の掲示板に張り出された。買いたい写真を選び番号を記入するためだ。マリンは戸惑った。友だちと一緒に写っている写真は何枚かあったけれど一人で写っている写真は一枚もなかった。マリンは悲しい気持ちになり、その日の帰り、サキトさんに初めて出会った沼に寄り道した。マリンは沼の水に自分の涙が落ちて小さな水の輪ができるのを見ていた。
「あれ?マリン・・・こんなところで偶然だね。」
振り返るとサキトさんがカメラを首にかけて立っていた。サキトさんは、この沼の風景が好きで、よく写真を撮りに来ていたのだ。マリンと初めて出会った日も、その日も。
「どうした?学校でイヤなことでもあったのか?」
「修学旅行の写真・・・」
「あ・・・そっか。ごめんね。帰りにウチに寄って。マリンの写真、あげようと思って、学校の掲示板には貼らなかったんだ。」
マリンはホッとしたのと思い詰めていた気持ちが高まってサキトさんにしがみついて泣いた。
「ごめん、ごめん。マリンが学校で掲示板を見る前に、写真、届けてあげればよかったのにね。気が付かなかった。ついついマリンの写真ばっかりいっぱい撮っちゃってさ。これはさすがに学校の掲示板に張り出す訳にはいかないなと思って。よけておいたんだ。」
マリン一人が写された写真は50枚以上あった。どの写真もマリンには、自分だけど自分じゃない素敵な少女に見えた。
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