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密会
変な写真を撮ってしまったことを後悔したマリンは、その日の学校帰り『ロマン写真館』に寄った。
「今朝のフィルム、やっぱり返して。」
と言った。
「どうして?」
と聞くサキトさんを見て、マリンはまだアレは現像してないんだと思った。間に合ってよかった!と思った。
「返さない。僕にくれたんでしょ?」
とサキトさんは言った。
「え?もう見たの?」
「朝すぐに見た。当たり前だろ。大好きなマリンの写真なんだから。」
朝からサキトさんが『マリン』と呼んでくれることに気づいていたマリンは目いっぱい背伸びした気持ちで言った。
「私もサキトって呼んでもいい?」
「いいよ。その代わり、約束してくれるかな・・・」
「約束?」
「そう。もう、あんな写真は撮らないこと。自分を大切にして。悲しくなるような写真は撮っちゃいけない。」
「わかった。約束する。」
「もし写真を撮ってほしければ、いつでも撮ってあげるから。」
「ホント?嬉しい!」
そんな話をしたのは秋の終わりだった。次の年の夏、マリンはサキトに、あのヌード写真を撮ってもらう。それまでの間、マリンとサキトは早朝どこかで会っていた。誰にも知られないどこかで会い、いろいろな話をしたりキスしたりした。
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それ以上の関係はなかったような気がする。なぜなら、撮影されたマリンのヌードは清らかな妖精のように美しかった。撮影した男の純粋な愛情が切々と伝わってくる写真だった。こんな爽やかに少女を愛することができる男を、俺は心から尊敬する。
サキトはマリンのヌードを撮影し、なぜ現像しなかったのか。
懐かしそうに初恋の記憶を語るマリンさんの言葉が止まった。
しばらく沈黙が続いた。マリンさんの目から涙がぽろぽろ溢れ、俺は声をかけられなかった。黙って時が流れるのを待った。マリンさんが、あまりに辛そうだったので、俺は耐えられず
「いいよ。無理に続きを話さなくても・・・・」
と言った。
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