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14歳の妖精
「いなくなったの。」
マリンさんは空中に視線を漂わせた。
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マリンがサキトにヌード写真を撮ってほしいと伝えた時、
「しばらく考えさせて。」
と言われ、3ヵ月くらい返事をもらえなかった。
「どうすることがベストなのか迷っている。」
とサキトは言った。
迷っているのは写真のことだとマリンは思っていた。サキトは人生を迷っていたらしかった。
返事をもらったのはマリンが中学2年生の夏だった。
「マリンが望むならヌード写真、撮ってみよう。14歳のマリンの素敵な魂を焼き付けるんだ。一生の宝物になるような写真にしたい。」
サキトはそう言って、撮影する時間や場所を綿密に計画してくれた。
何日かかけてヌード写真を撮影した。マリンは自分のすべてをサキトに見せるだけで、自分をサキトに捧げた気持ちになれた。サキトに一人の女性として愛されている気持ちになれた。大人になったら、きっとサキトと結ばれると信じた。サキトに夢中だった。
あと2~3枚でフィルムが終わる頃、サキトはマリンに言った。
「最後の写真は、もう少し待って。最高の場所を発見したんだ。ちょっと遠いんだけど・・・時間作って・・・行ってみよう。」
「楽しみだわ。」
「マリン。僕は人生で、こんな素敵な思い出ができるとは夢にも思わなかった。ありがとう。」
それがサキトの残した最後の言葉だった。
次の朝、いつもの待ち合わせ場所にサキトは現れなかった。心配になったマリンは昼頃『ロマン写真館』に行った。サキトのお母さんから驚くべき事実を告げられた。
「サキトはアメリカに戻ったわ。自分の夢が捨てられなかったのね。昨日の夜行列車に乗って行ってしまった・・・」
サキトのお母さんは、そう言って泣いた。
それっきりマリンはサキトに会っていない。サキトはきっと、これ以上、マリンと深く関わっても、マリンを苦しめるだけだと考えたのだろう。マリンの高校受験を考えて、消える時期を模索していたのだ。『ロマン写真館』の存続よりもマリンの未来を大切に考えての選択だった。サキトは心からマリンを愛していたのだ。
『ロマン写真館』はサキトがいなくなって間もなく閉店した。
マリンは青春の宝物が隠されているカメラを大切に保管してきた。残されたフィルムの最後の写真を、最高の場所で撮ってもらうために。サキトが戻って来たら、きっと、最高の写真を撮ってくれると信じて、ずっと待っていた。
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