14歳の妖精

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14歳の妖精

「いなくなったの。」 マリンさんは空中に視線を漂わせた。 ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※   マリンがサキトにヌード写真を撮ってほしいと伝えた時、 「しばらく考えさせて。」 と言われ、3ヵ月くらい返事をもらえなかった。 「どうすることがベストなのか迷っている。」 とサキトは言った。  迷っているのは写真のことだとマリンは思っていた。サキトは人生を迷っていたらしかった。  返事をもらったのはマリンが中学2年生の夏だった。 「マリンが望むならヌード写真、撮ってみよう。14歳のマリンの素敵な魂を焼き付けるんだ。一生の宝物になるような写真にしたい。」 サキトはそう言って、撮影する時間や場所を綿密に計画してくれた。  何日かかけてヌード写真を撮影した。マリンは自分のすべてをサキトに見せるだけで、自分をサキトに捧げた気持ちになれた。サキトに一人の女性として愛されている気持ちになれた。大人になったら、きっとサキトと結ばれると信じた。サキトに夢中だった。  あと2~3枚でフィルムが終わる頃、サキトはマリンに言った。 「最後の写真は、もう少し待って。最高の場所を発見したんだ。ちょっと遠いんだけど・・・時間作って・・・行ってみよう。」 「楽しみだわ。」 「マリン。僕は人生で、こんな素敵な思い出ができるとは夢にも思わなかった。ありがとう。」 それがサキトの残した最後の言葉だった。  次の朝、いつもの待ち合わせ場所にサキトは現れなかった。心配になったマリンは昼頃『ロマン写真館』に行った。サキトのお母さんから驚くべき事実を告げられた。 「サキトはアメリカに戻ったわ。自分の夢が捨てられなかったのね。昨日の夜行列車に乗って行ってしまった・・・」 サキトのお母さんは、そう言って泣いた。  それっきりマリンはサキトに会っていない。サキトはきっと、これ以上、マリンと深く関わっても、マリンを苦しめるだけだと考えたのだろう。マリンの高校受験を考えて、消える時期を模索していたのだ。『ロマン写真館』の存続よりもマリンの未来を大切に考えての選択だった。サキトは心からマリンを愛していたのだ。  『ロマン写真館』はサキトがいなくなって間もなく閉店した。  マリンは青春の宝物が隠されているカメラを大切に保管してきた。残されたフィルムの最後の写真を、最高の場所で撮ってもらうために。サキトが戻って来たら、きっと、最高の写真を撮ってくれると信じて、ずっと待っていた。
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