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心まで映しこまれた写真
「確か・・・どこかにあるはずだわ。その時のカメラ。」
マリンさんは、急に思い出したように言った。
俺は言い出しにくくなった。サキトさんに最高の場所で最後の一枚を撮ってもらう前にフィルムを現像してしまったことを。だが、もう50年も前の話だ。許してくれるだろう。
俺は写真屋の袋をマリンさんに渡した。マリンさんは予感したのか黙って袋を胸に抱きしめた。袋の中身を確かめもせず、またぽろぽろと涙をこぼした。
マリンさんの心を和らげたい一心で、俺は語った。
「素敵な写真だ。こんな素敵な写真、今まで見たことないよ。正直、驚いたけど、それ以上に感動した。この写真を撮った人が、どんなにマリンさんを大切に感じていたか、どんなにマリンさんを愛していたか。マリンさんの心の美しさまで映しこんでいる。マリンさんの幸せな気持ちを、マリンさんの恋する気持ちを、あたたかく包み込むように写し撮っている。サキトさん。最高のカメラマンだ。最高の恋人だね。うらやましいよ。こんな素敵な思い出持ってるマリンさんが・・・」
そう言いながら俺は不覚にも涙ぐんだ。
マリンさんは写真屋の袋から、写真を取り出した。一枚、一枚、涙を流しながら見ていた。60歳になるマリンさんが14歳の少女に見えた。
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