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【第14話:かばでぃとデザート】
貴宝院さんの浮かべる自然な笑顔に思わず見惚れてしまった僕だったけど、なんとか再起動して話題を変える事にした。
「あ、いや、えっと、お礼を言われるような事じゃないし……そ、そうだ! 元々ここに僕を連れてきたのって、僕に貴宝院さんの能力が通じない事について話をするため?」
貴宝院さんが毎日ここで一人でお昼を食べているという話を聞いて、思わず僕の方から色々話をしてしまったが、元々ここに連れてきたのは貴宝院さんだし、何か話があるから連れてきたはずだ。
「うん。そうだね。もう神成くんに通じないのは良いんだけど、他にも通じない人がいると困るから」
今、貴宝院さんの日常生活がある程度守られているのは、この能力があるからだ。
貴宝院さんと色々接するようになってから、ネットで色々調べてみたが、僕が思っていた以上に『神の奇跡』の話題は過熱していた。
その過熱ぶりは、本当に身の危険を感じてもおかしくない程に……。
だから、もし僕以外に貴宝院さんの能力が通じない人がいるなら、不安にかられて当然だと思った。
「そうだね。それで、その事についてなんだけど、まずは貴宝院さんの能力について、もう少し詳しく教えて貰えないかな? 僕まだ、何となくでしか理解できていないから」
まずは貴宝院さんの能力が実際どのようなものなのか、どの程度の範囲に効くのかなど、そのあたりをしっかり理解しておかないと一緒に色々考える事も難しい。
「あぁ、そうだよね。まだちゃんと私のこの能力について話してなかったよね」
「うん。でも……まずはお昼食べない? 食べながらでも良いけど」
僕がそう言うと、慌てて僕のコンビニの袋を返してくれた。
「ご、ごめんなさい!」
「ははは。良いよ。気にしないで」
「ホントごめんね。じゃぁ、そこのベンチで食べながら話しましょ」
二人でベンチに座ってお昼を一緒に食べるというシチュエーションに、一瞬変に意識をしそうになったけど、何とか立て直して僕も貴宝院さんに続いてベンチに腰をおろす。
そして、無事に戻ってきたコンビニの袋から、僕がたまごサンドと紙パックのコーヒー牛乳を取り出していると、貴宝院さんが興味深そうにのぞき込んできた。
「あれ? 神成くん、この前もお昼、同じ物食べてなかった? それに、お昼ってそれだけ?」
「え? あ、うん。僕はお昼はだいたいこの組み合わせかな?」
このコンビニの至高のたまごサンドと紙パックのコーヒー牛乳は、崇めても良いレベルだ……などと思っていると、貴宝院さんにダメ出しをされてしまった。
「ダメだよ。毎日同じ物、しかもそれだけしか食べないとか。それに神成くんって一人暮らしなんでしょ? もしかして、朝や晩御飯もそんな感じなの?」
「ん~? 朝はトーストと目玉焼きとコーヒーで、夜はご飯だけ炊いて、お惣菜を一品か二品スーパーで買って食べる事が多いかな? あっ! でも、晩は野菜ジュース飲んでいるよ!」
と、健康気にしていますアピールしてみたのだけど、一笑に付されてしまった……。
「あのね~野菜ジュース飲んでるだけじゃ、必要な栄養は取れないよ? ……あ、その……お金が足りないとかじゃないよね?」
もしかしてお金がなくてと思い至ったのか、急に申し訳なさそうにする貴宝院さん。
でも、別にそういう理由ではないので、僕は慌てて否定しておいた。
「違う違う! 裕福って訳じゃないけど、親からは十分な生活費送って貰っているし、そういう理由じゃないから大丈夫!」
別にお金が足りないとかいう訳ではなく、僕が少し偏食なのと、元々食べる量が少ないので、正直今まであまり食事に気を使っていなかったと言うだけだ。
まぁ多少は浮いた食費でラノベを買ったりしない事もないけど、そのために節約しているわけではない。断じてない。
「そ、そう。それなら良かった。でも、本当に私たちぐらいの歳の食生活は大事なんだから、ちゃんと食べないとダメだよ」
「はははは……ぜ、善処します……」
「ぜったい、改善させるつもりないでしょ……とりあえず、ほら、これ食べて。今日は話に付き合って貰うつもりだったから、神成くんの分のデザートにと思って、フルーツ持ってきたの」
そう言って蓋を開けて差し出してきたのは、丸く可愛いオシャレな容器に入ったフルーツの盛り合わせだった。
綺麗にカットされたオレンジやぶどう、パイナップルに、いちご、キウイなどが、見映えよく綺麗に詰められていた。
「まさかそんな食生活だとは思ってなかったから、今日はデザートだけで我慢して」
「え? いや、全然我慢じゃないし! と言うか、話するだけなのに、こんなの貰えないよ!」
それに今日はって……。
「その……これからお昼一緒に食べてくれるんでしょ? 私、毎朝自分とさやかの分を作ってるから、神成くんのお弁当も作ってあげるよ。とりあえず今日は、そのデザートは私の分も別で持ってきてるから、たまごサンド食べ終わったら、遠慮せずに食べちゃって」
「え、いや、そういう訳には!?」
「それ……その苺ね。さやかが切ったの」
おぉ……そんな事言われたら断れない……。
「わ、わかった……さやかちゃんに、お礼言っておいて、あと、もちろん貴宝院さんも、その、ありがと」
最後は恥ずかしくてちょっと語尾が消え入りそうだったけど、僕がそう言うと、嬉しそうに「どういたしまして」と言って、貴宝院さんもお弁当を食べ始めたのだった。
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