風が鳴く

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 麻理の小さい手が俺の頭を撫でる。また一層強く抱きしめて、今度は唇にキスをする。もう何回もしているはずなのに、すこし照れ臭そうに笑う麻理は綺麗だった。おでこ、頬、耳、首、麻理を確かめるように唇を落としていく。麻理はくすぐったそうに、嬉しそうに笑う。  久しぶりの心地よい麻理の声に、うっとりと頬をする。 「愛してるよ」 「私も」  優しくソファに寝かせれば、これからする事を想像してなのか両手で顔を隠す。胸が締め付けられる。愛おしい、ただそれだけの感情だった。前髪をかきあげておでこにキスすれば、両手の指の隙間から大きな目が、すこし困り顔でみている。頬を撫で、手のひらにキスを落とす。 「麻理」  ギュウとまた力一杯抱きしめる。服を脱いで抱きしめても、まだ足りないくらい、くっつきたくて、いまは皮膚さえ邪魔だと感じるほど、1つになりたかった。何回愛してるといえば伝わるだろうか。何度と言ったって、きっとまだまだ足りない愛の言葉を降らせていく。いくら言っても足りない、いくら抱きしめても足りない。会えなかった期間を言葉で埋めるように、触れ合えなかった期間を埋めるように。 「……麻理」  一糸纏わぬ姿になった麻理の滑らかで白い肌はいつみても綺麗だった。それを確かめるように俺の節々しい手で撫でる。ああ、麻理だ、麻理がいる、と嬉しくて泣きそうだった。その懐かしいサラサラした麻理の肌に、汗ばんだ俺の手は不釣り合いだった。そんな手をとって、麻理の小さな唇がキスをする。麻理は、ふふ、と楽しそうに笑う。綺麗な姿の麻理と、後ろには可愛らしい風鈴がある。リン、と鳴る涼しげな音色はは、このすこし生々しい部屋に不釣り合いではあるけれど、とても綺麗に響いた。 「……幸せだ」  カーテンから透けた木漏れ日を映す麻理は綺麗だった。ずっと、この景色を見ていたい。なんとしてもこの目に焼き付けようと、麻理を見つめる。恥ずかしいよと切なげに笑う麻理も、肌に感じる心地よさも、心をギュウと締め付ける。麻理の綺麗な頬に、一粒水滴を落ちた。涙なのか、汗なのか。暑い部屋に吹く風に揺れる風鈴が、部屋に響く。
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