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「待ってた……ずっと。死にたいって、そう思いながら、柊一が引き止めてくれるのを……その腕で、引き上げてくれること」
「亨」
「うれしかった。僕だってわかってくれたこと……抱きしめてくれたこと」
夢、ではなかったのだ。亨も、あの場所にいたのだ。今野はそっと口付けをして微笑んだ。
「早く元気になってくれよ。そうしたら……一緒に暮らそう」
亨は、息を呑んだ。首を振ろうとして、それから、静かに頷いた。涙が止まらない。
「大事だから……何よりも」
「柊一」
点滴の管を繋げたままの腕から、指へと今野は手をすべらせ、そっと指を絡ませた。慈しむように亨を抱きしめながら、愛している、と誓約のように耳元で囁いた。
その瞬間。今野の腕時計の秒針が動き始める。それは、二人にかけられていた魔法がやさしく解かれて、同じ時が刻まれ始めた証だった。
了
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