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亨によく似た、葵。今野を見つめる瞳にわだかまるものがある。着物を纏い、敬語を使い、亨ではないのはわかっていたが、彼に通じるものを感じる。それは顔だけに留まらない。何かに試されているような気にもなってくる。まるで答えを導かれているように、亨に伝えたかった想いを、葵に知られてしまった。
――もし伝わるものなら、伝わってほしい。
様子がおかしかったのは、亨だけではない。今野も想いをうまく表せなくて、濁すことも増えた。互いの気まずさが関係を微妙なものにしていったが、今野はいつでも亨を大事にしたかった。これが本音だ。生きてほしい。そして必ず渡したい言葉がある。
「今野さん」
「あ、はい」
どのくらい時が経ったのだろうか。ふらりと葵はやってきた。今野は起き上がり、葵を迎えた。
「眠っていましたか?」
「いえ、まだ」
葵は、きちんと正座をして、布団縁に座った。互いに、気まずさだけがあった。
「あの、葵さん。さっきのこと、だけど」
「はい」
「すみませんでした。何て言ったらいいか。本当に、すみません」
「いいえ、私も忘れます」
亨の身代わりだった、と、一番よくわかっているのは今野だった。謝る他ない。
「亨さんはどんな方ですか?」
気を取り直したように尋ねてくる。
「きれいな人だよ。姿形だけじゃなくて、心も。頭はいいし、でも、要領は俺の方がいいかな」
今野は少し笑った。つられて、葵も表情を緩ませた。
「今野さんは亨さんのことが、とても大事なんですね」
「大事だよ。ずっと、大事だった」
葵は微かに頷いた。
「早く帰ってあげてください。きっと、亨さんは、あなたのことを待っている」
「葵さん。あいつ……死ぬかも、しれない」
そんなことはない、と言ってほしかった。同じ顔をした葵がそう言ってくれれば、それが現実になるような気がしたからだ。だが、彼は首を振った。
「だからその前に会ってあげて」
「あいつは死ぬのか?」
「……なぜ、それを私に聞くのですか。……ですが、亨さんの気持ちはわかります。きっと、最後に一目、あなたに会いたい、と」
「葵さん」
「どうか、すぐに。あの人の側に」
葵は瞳を潤ませて微笑んだ。その時、閃くものがあった。
「君は」
「何ですか?」
「……君には好きな人が、いるのか?」
「え?」
葵はその問いの意味がよくわからない、というふうに、首を傾げた。
「聞きたいんだ」
「今野さん」
「いるんだろ。聞かせてくれ」
今野はひたむきな視線で葵を見つめた。
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