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写偽
「はい、チーズ」
夏休みのとあるキャンプ場、一組の家族が集合写真の撮影を行っていた。
家族構成は親夫婦、子の夫婦、その夫の弟、子の夫婦の子三人の八人になる。
この写真撮影はキャンプ場の管理人にシャッターを頼んだものだった。写真撮影が終わると、キャンプ場の管理人が八人の中にいた線の細い青年にデジタルカメラを渡す。その青年は夫の弟にあたる者になる。
青年はキャンプに行く気はなかったのだが、兄の子供の子守り要因として半ば強引に呼び出された体になる。始めは「子守りなんて」と不満タラタラだったが、甥っ子姪っ子が「おにいちゃんおにいちゃん」と慕ってくれることや、義理の姉も優しくしてくれることからキャンプそのものは楽しんでいた。
「すいません。わざわざ写真撮ってもらって」
「いえ、ところで現像等は。一応、管理棟にプリンターあるんですけど」
ここでお願いしますと言えば要らぬ料金を取られるかもしれない。青年はキャンプ場管理人の提案をやんわりと断った。
「自宅でやりますよ。最悪スマホにデータ移して送信しちゃえば終わりますし」
「時代は変わりましたね。昔はキャンプの締めと言えば集合写真でフィルム頂いて、お急ぎで現像してたものなんですけど。今や写真暗室も蜘蛛の住処ですわ」
デジタルカメラが普及する前の昭和や平成初期のキャンプ場のサービスはこんな感じだったか。それで明らかに相場よりも高いカネ(数千円ぐらいだろうか)を要求すると…… 青年はくくくと苦笑いを見せる。
青年は親夫婦に写真をどうするかの相談を持ちかけた。このままスマホにデータを送信して終わることが出来れば楽は楽である。しかし、この親夫婦、機械に疎く、未だにフィーチャーフォンを使っている。送信できないこともないが小さい画面で集合写真を見ても仕方ないということで親夫婦は青年に提案した。
「あたしら、でぇた(データ)って言うの送ってもらっても仕方ないから、現像してくれないかな」
青年は自宅のプリンターで集合写真を印刷し、後日、実家に写真を郵送した。
このPricelessな思い出は時間の居間に飾られ、写る者は皆変わらぬ笑顔を見せている。
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