写偽

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青年はその日の夜より、写真加工に乗り出した。実際のところ、共産主義でやっていたような写真改竄なぞをしなければいけないのかと疑問に思ってはいたのだった。 「えっと、元姉上のところだけを切り取るんだったな」 青年は元・姉にマウスカーソルを合わせる。写真に写った元・姉の輪郭が蟻の行列のように白黒がうねうねと動くものとなった。 「よいしょっと」 投げ縄で引き抜かれたように元・姉の姿が写真から消去された。青年は慎重な性格をしているためにここで一旦画像の保存をしようと、今や意味を知る者も少なくなったフロッピーディスクのアイコンをクリックする。 上書き保存しますか? はい いいえ ああ、そうか。ここで「はい」をクリックすると、元・姉の姿は消え去ってしまうのか。離婚後、元・姉の写真は全部処分したとのことだった。処分に処分を重ねて最後に残ったのがキャンプで皆で撮った写真にいる元・姉のみとなっていた。 青年は早々に家から独立したために兄嫁とはロクに会っていない。此度のキャンプで初めて自己紹介をし合ったぐらいである。それ故に元・姉に対する愛着はゼロと言っても良い、三人の甥っ子姪っ子に関しては「お兄ちゃんお兄ちゃん」と慕ってくれるのか、ほんの少しだけ愛情を感じていたし、彼らと過ごすキャンプは楽しいと思えるのであった。 離婚理由が離婚理由だけに「あんな阿婆擦れしったことか」と、言った感じで、青年は躊躇いなく「はい」をクリックした。 元・姉のところだけが白い空間(スペース)となった集合写真が出来上がった。このままでは具合が悪いとして、背景画像から推測するそこにあったと思われる背景を貼り付ける。 貼り付けてはみたものの、僅かに違和感が残る。似たような背景を貼り付けても色合いが僅かに違うのだ。共産主義で行われていた写真改竄での白黒写真ならまだしも、科学万能の時代に生まれた数千万画素のデジタルカメラの画像ともなれば写真改竄もそうそう上手くいかない。川沿いの写真なのだから背景は当然川である。同じ写真内に写る別の流域を貼り付けてみるがどうも具合が良くない。明らかに他所から貼り付けたようなコラージュ感が強いのである。
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