写偽

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数年後、青年は結婚し妻を娶り、子を儲けた。三人で実家に遊びに行った際に、青年の妻は居間に置かれていたキャンプの写真を眺めていた。 「あれ? これ皆でキャンプに行ったんですか?」 「ああ、数年前にね。君とうちのネンネがもう少し大きくなったら皆で一緒に行こう」 青年の妻は写真を手に持ち眺める。その目線は青年の兄の方に向いていた。 「お兄さん、あまり変わりませんね」 「もうアラフォーだからね。変化も少ないでしょ」と、青年の兄が笑う。青年の兄も実家に遊びに来ていたのだった。 写真に写っているのは親夫婦、兄弟、兄の子供三人の七人である。青年の妻は写っているはずの兄の妻がいないことに違和感を覚えた。ちなみに兄が離婚を経験していることは伝えていない。 「あれ? お兄さんのお子さんですよね? 奥さんにあたる人がいないんですけど、忙しくて来られなかったとか?」 親夫婦も青年も首を傾げる。 「うちはその時七人家族だったから…… ねぇ?」 青年は親夫婦に同意を求めるように尋ねる。 「そうだよ。この時は七人だったんだよ」 「そうだよ、兄貴も結婚なんかしてないし」 「恥ずかしながら独身なんですよ。結婚なんかしたこともない」と、青年の兄が笑う。 青年の妻は意味が分からずに怪訝な顔をした。 「じゃあ、その子どもたちは……」 「私の子ども達ですけど」 「あれ? 離婚か何かされてるのでは?」 「先程、結婚してないと言ったはずですが」 意味がわからない。青年の妻の怪訝な表情は益々深くなっていく。 「あれ? 私の子ども達であるのは間違いないのですが、結婚した覚えがない。確かに私の子どもたちなのに……」 「そうだよ、兄貴。結婚してないのに何で子どもいるんだよ」 「分からねぇ…… それに最近は会ってもないし」 この家族の中で写偽(シャギ)は写真となってしまった。兄の元・妻がどうなっているのかはもう誰も知らない。 集合写真から消えたことが彼らの中では(まこと)になってしまったのだから……                                                                   おわり
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