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 カシャッ、とシャッター音が鳴った。  夜道を歩いている、その時だ。  仕事の帰りが遅くなったため、自宅付近の家々の明かりは疎らだった。辺りはしんと静まり返っていて、私の靴の音だけがやけに大きく響いていた。  車一台分程の狭い街路。左右は住宅に挟まれていて、右前方には小さな月極め駐車場が見える。空には不安になるくらいの大きな月が浮かんでいて、風は生ぬるい。  背後を振り向くと、ここまで歩き進んで来た道が長く続いている。人影は認められない。  空耳だったのだろうか。それにしてはハッキリとした音だったが。  再び正面を向いて、息を吐く。余程疲れているのだろう。それも仕方ないなと、自分で思う。上の人達からは随分とマシになったと聞かされるが、雑誌出版業界というのは男社会だ。報道部の記者となれば尚その比重は大きく、心身共に疲労も溜まる。  更に今日はハードな取材が立て続けてあった事に加え、大きな事故まで起こった。撮る側が、なんて話を耳にした事はなかったが、今のコンディションなら幻聴の一つくらい聞こえても無理はないように思える。
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