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「うわっ、さっみー……」
助手席から出てきた智也は、外気に触れた途端、身をかがめて二、三、首を横に振った。
茶色のダウンコート。オフホワイトの毛糸でできた帽子。地味なアイテムの中、クリスマスにプレゼントした赤いチェック柄の手袋が良く映えていて、俺は一人満足する。
「ほら、これ」
後部座席からコンビニ袋を取り出し、俺は智也に投げる。智也はそそくさと中身……ホッカイロを二つ取り出し、無言でカシャカシャと振る。
無言で作業するその姿は、どうしてか口を尖らせていて、無駄に可愛い。
「じゃあ、行くか」
車の鍵をかけ、俺たちは二人並んで駐車場から入場ゲートまで向かう。
道すがら、同じように念入りに防寒着を着込んだカップルを何組も見かける。時々家族連れもいて、小学生らしき女の子が目をきらきらとさせている。
イルミネーションが見たい、と智也が言い出したのは、先週の金曜日だった。
お互い月末の忙しさがひと段落したところで、撮り溜めていたドラマを消化していた時、イルミネーションに向かう主人公に感化されたのだ。
昔から智也は、何かと影響を受けやすい。CMで流れた歌を気付いたら口ずさんでいるし、レストランに入れば隣の人と同じものを注文しがちだ。
だから、受験で高校大学と同じ進路を選んだ時も、俺に影響されているだけだと思っていた。大学の卒業式に告白されるまで、俺の一方的な片想いだと思っていた。
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