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「事前チケットをお持ちの方は、こちらから入場ください」  なだらかな斜面を登り切ると、入場ゲートが見えて来た。係員らしき人が数人、客を誘導している。奥には皓々と輝くイルミネーションが顔を覗かせていて、先程の女の子がより一層はしゃいでいる。  ちらりと横を見ると智也も惚けた顔で光を目で追っていた。寒さの所為か、白い頬が少し赤く染まっていて、何だか色っぽい。  俺は込み上げる愛しさをぐっと飲み込む。まずは智也と一緒にこの光の集合体を楽しまなくては。 「すげえ迫力……!」  コンビニで買っておいた味気のないチケットを係員に渡し、園内に足を進めると、早速智也は立ち止まり、目の前にある家を模したオブジェを見上げた。  クリーム色の家は、青い屋根をかぶっていて、星だか花のコサージュのようなものが散りばめられている。遊べるようにか、中に少し空間があり、既に数人の子供がはしゃいでいる。大人でも、少し屈めば入ることができるだろう。 「一緒に遊んでくれば?」  キラキラとした瞳でオブジェを見つめる智也に、俺は声を掛ける。智也はハッとしてこちらを見ると、その丸い瞳を懸命に細め、怒った顔をした。 「冗談だって。次行こう」  文句を言われる前に、と俺は智也の腕を掴んで、「順路」と書かれた右手にある通路へ向かう。  外でのスキンシップが少ないと、以前知也に不平を言われたことがある。それは男同士だから仕方ないところがあるのだが、それでも手くらい繋ぎたいと駄々をこねられたことがあった。俺はイエスとは言えず、結果、何かにかこつけて智也に触れるように心掛けている。今のところ、それで妥協してくれているようだ。  通路を進むと、花畑をイメージしたイルミネーションが眼下に広がった。全体を緑色の光が占め、所々に花を模した赤や青やピンクや紫の集合体が主張している。 「あそこに似てない?」  暫く無言で光の花畑を見つめていた智也は、不意にそう言って俺を見る。 「そうだな。あの温泉、また行きたいな」  俺も智也の方を向いて答える。満足そうに笑う智也。どうやらアレ、は合っていたようだ。  昨年の春、初めて二人で行った温泉旅行。同棲二年目を記念だからと、奮発して露天風呂付き客室を手配した。のぼせるまで智也と一緒に風呂に入って、二人っきりで部屋食を楽しみ、怠惰にその後の情事も楽しんで……。兎に角贅沢で幸せな旅行だった。  花畑へは、帰りの道中ふらりと立ち寄った。宿を楽しみ過ぎて、観光らしい観光をしていなかったことを思い出したから取り敢えず寄った場所だ。思いの外花は咲き誇り、俺も智也も見惚れてしまった。結局、一〇分くらいのつもりが、一時間も滞在してしまった程だ。 「行こうね。また二人で」  智也はこちらに顔をむけ、にこりと微笑む。光に照らされた唇が艶かしい。ごくり、と唾を飲み込み俺は心を落ち着かせる。  盛りの付いた男子高校生のように、俺はいつでも智也が欲しくなってしまう。智也の肌は、どんな時でも魅力的だ。小学校で出会ってから二十年も我慢し続けた抑圧の所為か、付き合って二年を経過した今も、毎日智也が愛おしい。
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