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3
「あ、イルミショーがあるんだって」
俺の心中なんて知らない智也は、近くにあった看板を覗き込み、声を弾ませた。音楽と光を組み合わせた、一〇分程度のショーがあるらしい。三十分おきにやっているようで、看板の隣にあるカウントダウン式の時計が、次の開催時刻まであと二分を切ったことを知らせている。
「どの辺から見るのが良いんだろ?」
辺りをキョロキョロしながら、見晴らしの良い場所を探す智也。しかし小高い丘の上とか、陸橋の上には既に人が集まっていて、楽しめる感じではない。
「あっちの方で良いんじゃないか?」
俺は先程通ってきた花畑の端を指す。下り坂の先にあるため、全体を見渡せる訳ではないが、人がいなく、ゆっくりと鑑賞できそうだ。
時計はもう五十秒を切っていた。俺と智也は少し早足で移動していると、丁度目的地に着いた所で園内のライトアップと音楽が消える。ショーの開始だ。
「わぁー……!」
静寂が二、三秒続いた後、まるで指揮者が合図したかのように音と光が一斉に演奏を始めた。一世代前に流行ったJ−POPに合わせ、光が点いたり消えたりを繰り返す。赤に緑に黄色にと、次々と表情を変えるその姿は、見ている者を惹きつけて離さない。その証拠に、智也は最初こそ歓声を上げたが、その後は息を飲み、光の動きを懸命に追っている。
俺はそんな智也の表情をじっと見ていた。子供の頃から、ずっと智也の隣にいた。この、特別な感情に気付いたのはいつの頃だったか。智也の肌を夢に見ては悶え、叶わない現実に何度絶望したか。
智也を独り占め出来る現状は、もしかしたら幻想なのではないかという思いが、時々頭を掠める。このイルミネーションのように、光の点滅によってもたらされた夢物語なのではないかと。
堪らなくなり、俺は智也の腰に手を回した。イルミショーに夢中になっていた智也は、突然のことに体をびくっとさせる。周りに人がいないことを良いことに、俺は構わず智也を抱き寄せる。ふらふらと、千鳥足のように二、三歩歩みを進め、厚着の智也が俺の体を密着する。
「優?」
不思議そうな声を上げ、智也は俺の名を呼ぶ。少しだけ垂れている瞳。栗毛のサラサラの髪。白い肌。小さい唇。
あぁ、やっぱり俺は智也が好きだ。
「……」
頭に手を回し、俺は静かに顔を近づける。
それから俺は暗闇に乗じて、智也にそっと口付けた。
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