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バケモノは目から水を止めぬまま、自分より小さなランバードの前に頭を垂れ、背中を丸めてうずくまった。
そしてしゃがれた声を絞り出すように、
【ああ……松茸……! ワシはもうお前に会えないかと思っていたよ……急に家からいなくなって、一体どこへ行ってたんだい? あんまり年寄りを心配させないでおくれ……】
バケモノはランバードに向かって何かを話しているのだが、初めて聞く言語で長官達には理解できない。
「ランバード、な、なんと言っておるのだ!?」
「訳します。松茸様に再びお会いできて嬉しいです。突然姿を消されて胸が張り裂けそうでした、と」
即座に訳すランバードに長官達は歓声をあげた。
「すごいぞ! して、“マツタケ”とは?」
「奴が付けた私の名前です。“この上なく高級な物”という意味です」
「おお!!」
【ワシは松茸を探しに毎日近所を回っていたんじゃ。そんな中、急に胸が苦しくなり倒れてしまってね。癌に蝕まれたこの身体……いつ死んでもおかしくない、覚悟は出来ている。ただ最後に松茸に会いたかったんじゃ。
ああ、これでもう心残りはないよ。今だって呼吸が、呼吸が……ん? あれれ? ぜんぜん息苦しくないな……それに胸も痛まない。おや? おかしいなぁ。まるで30年は若返った気分だ】
「奴が眠っている間に、宇宙船で悪い所は全部治しましたからね。体の調子が良くなって驚いているようです」
【それにしても、ここはどこだ? 人が誰もいないし、家も電柱もスーパーも何もない。近所にこんな原っぱなんてあったかな……?】
「ここがどこだか疑問を抱いているようです」
【まあ、細かい事はどうでもいい。どうせワシは死にぞこないの老いぼれジジイ。ここがどこでも、これが夢でも、またこうして松茸に会えたのだ。松茸がそばにいれば、それだけで幸せだ】
「私がいればそれだけで幸せだと言ってます」
長官は心底感心した。
こんな巨大なバケモノをこうも懐かせて、言語さえ習得しているとは。
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