コニ星にバケモノがやってきた。

6/9
前へ
/9ページ
次へ
バケモノは目から水を止めぬまま、自分より小さなランバードの前に(こうべ)を垂れ、背中を丸めてうずくまった。 そしてしゃがれた声を絞り出すように、 【ああ……松茸……! ワシはもうお前に会えないかと思っていたよ……急に家からいなくなって、一体どこへ行ってたんだい? あんまり年寄りを心配させないでおくれ……】 バケモノはランバードに向かって何かを話しているのだが、初めて聞く言語で長官達には理解できない。 「ランバード、な、なんと言っておるのだ!?」 「訳します。松茸様に再びお会いできて嬉しいです。突然姿を消されて胸が張り裂けそうでした、と」 即座に訳すランバードに長官達は歓声をあげた。 「すごいぞ! して、“マツタケ”とは?」 「奴が付けた私の名前です。“この上なく高級な物”という意味です」 「おお!!」 【ワシは松茸を探しに毎日近所を回っていたんじゃ。そんな中、急に胸が苦しくなり倒れてしまってね。癌に蝕まれたこの身体……いつ死んでもおかしくない、覚悟は出来ている。ただ最後に松茸に会いたかったんじゃ。 ああ、これでもう心残りはないよ。今だって呼吸が、呼吸が……ん? あれれ? ぜんぜん息苦しくないな……それに胸も痛まない。おや? おかしいなぁ。まるで30年は若返った気分だ】 「奴が眠っている間に、宇宙船で悪い所は全部治しましたからね。体の調子が良くなって驚いているようです」 【それにしても、ここはどこだ? 人が誰もいないし、家も電柱もスーパーも何もない。近所にこんな原っぱなんてあったかな……?】 「ここがどこだか疑問を抱いているようです」 【まあ、細かい事はどうでもいい。どうせワシは死にぞこないの老いぼれジジイ。ここがどこでも、これが夢でも、またこうして松茸に会えたのだ。松茸がそばにいれば、それだけで幸せだ】 「私がいればそれだけで幸せだと言ってます」 長官は心底感心した。 こんな巨大なバケモノをこうも懐かせて、言語さえ習得しているとは。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加