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「……え?」
聞き返してしまったのは、聞こえなかったからじゃない。
ただ、信じたくなくて。
「あのね、……付き合うことになった。あたしたち」
幼なじみで友達の美琴(みこと)が、頬を赤く染めて、つい30秒前に告げたばかりの言葉を繰り返す。
その隣には、同じく幼なじみで友達の康太(こうた)が立っている。
ふたり仲良く、手を繋いで。
こめかみから、一筋の汗がひやりと流れる。
だけど、それを気づかれるわけにはいかない。
「そ、そうなんだー……!びっくりした!でも、おめでとう……!」
私は、口から出る言葉とは逆の感情に溢れそうになるのを必死でこらえながら、口角を上げるように努力した。
高校2年生、春。
なんでもない放課後になるはずだった、今。
倉地小雪(くらち こゆき)、人知れず失恋しました。
桜の花びらが、窓の外でひらりと散ったのが見えた。
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