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口では何とでも言える。
こんな気持ち、男の人になんて理解るはずがない。
これは、おそらく話しても埒が明かない。
このまま強要されるなら逃げよう。
そう思い、私は踵を返そうとした。
祐「…梨乃っ!」
と、その瞬間だった。
ドクター「おやおや……どうされました?」
先に診察室へ入ったはずのドクターが私たちの元へやってきた。
私たちの雰囲気を見て何かを悟ったような表情をするドクター。
ドクター「…あぁ…なるほど……」
雰囲気の悪くなった私たちを見て状況を察知したのだろう。
祐「ドクター……申し訳ない。ちょっと彼女と二人で話を……」
きっと彼のことだからなんとしてでも言い聞かせようとする。
だけど、私の気持ちは決まっている。
私はドクターを見据える。
梨乃「すみません。私…婦人科初めてで……その…やはり内診とかあるんですよね?それでしたら受診はお断りさせていただきたいと思いまして。」
祐「…梨乃っ!」
彼のことがどんなに好きだとしても、私にだって譲れないものがある。
あんな羞恥を、知らない人に晒すなんてやっぱり考えられない。
梨乃「ゆうちゃん、私にだって言えないことも受け入れられないこともあるの。いくらゆうちゃんのお願いでも私は……」
と、その時だった。
ドクター「…そういうことでしたか。でしたら内診はいたしません。ご本人が嫌がることなど私もできませんから。ですが、放っておくのもどうかと思われます。それでしたらきちんと貴方様から詳しく症状を聞かせていただきたい。ん、大丈夫です。同じように内診を嫌だと思われる女性はたくさんいますから。それなりに……他の方法もございますから…」
物腰柔らかいその言葉――……
よくいる上から目線の横暴な自分本位な医者とは違うようだ。
私の心が少しずつ揺らぎはじめた。
梨乃「…他の……あの……時間ってどのくらいかかりますか?」
ドクター「そうですね。今日中に出ない検査の結果などは後日ということになりますが、緊急性のある結果はおそらく今日中に出ると思われますので、そうですね、2~3時間ほどと考えていただければ…」
梨乃「分かりました。それではお願いできますか?」
検査か何かをやるのなら取り掛かりは早い方がいい。
内診をしないで済むのなら私としては問題ない。
ドクター「承知しました。ん、では行きましょうか。あぁ、坊ちゃんは仕事がお有りでしょうから終わり次第ということで。」
祐「…えっ……しかし……」
ドクター「さ、仕事にお戻り下さい。」
ゆうちゃんの言葉を払い退けたこのドクターは一体何者なのだろう。
笑顔で私を促すドクターに連れられ、私は診察室へと向かうのだった。
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