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部屋を出ると一気に外の世界が視界に入ってきた。
高層階のこのフロアはガラス張り。
こんなにガラスばかりだと外から見えるのではないかと思うのだが、実際は外から見えない仕様になっているとか。
クリアに見える景色を見つめながら歩いていると根本さんが話し始める。
根本「ふふ……まさかあの梨乃さんと歩いているとはね……」
回想しているのだろう。
根本さんは終始笑みをこぼしている。
根本「つい最近ことだったはずなのに……時間が経つのは本当に早いわ。」
私を知っているということはそれは17年前からいるということ。
私としたら17年しか生きていないからその感覚はまだ分からないけれど、やはり年を重ねてくるとそんな感覚に陥るのだろうか。
根本「あぁ、お母さま……愛梨さんは元気かしら?」
梨乃「あ、はい。元気です。」
根本「そう。良かったわ。確か今はダンナ様のお家の旅館の女将さん業してるのよね?」
梨乃「はい。毎日奮闘しています。」
まだまだ頼りない女将さんだけど、お祖母ちゃんに教わってママなりに頑張っているようだ。
根本「奮闘……元気なのね。元気でいるのなら良かった。ん……あの時はどうなるかと……」
梨乃「…あの時?」
根本「…貴方を出産した時のことよ。難産だったのよね。」
私の出産時のことは私もパパやママから聞いてはいる。
出血多量で命の危険があったとか、必要以上に入院日数がかかったとか。
根本「貴方が元気に生まれたものの、愛梨さんが出産時に意識を失っちゃって……」
それは初耳である。
かなり危険な状態であったことは聞いているが、詳細は聞かされていない。
梨乃「え?ママ意識を失ったんですか?」
根本「あ、聞いていないのね。ん、でももう時効ね。そうなのよ。それで戻ってこないから私たちも困っていたの。そしたら祐さんが分娩室に入ってきて……」
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